金星探査機「あかつき」、延長ミッションに移行
【2018年12月10日 JAXA】
「あかつき」は2010年5月に打ち上げられ、同12月7日に金星周回軌道に投入される予定だったが、軌道投入のための逆噴射を行う主エンジンが噴射途中で破損し、金星周回軌道への投入に失敗した。そこで、5年後の2015年12月7日に姿勢制御用のスラスターを使って再び軌道投入を試み、遠金点が44万km、周期14日で金星の周りを公転する長楕円軌道に投入することに成功した。その後、2016年4月に軌道修正が行われ、近金点8000〜1万km、遠金点36万km、周期10.5日の軌道で定常観測を行ってきた。
「あかつき」はこれまでの観測で、金星大気の中層から下層にかけての赤道付近にジェット状の風の流れ(赤道ジェット)が存在することを明らかにしたり、金星の雲頂に長さ1万kmに及ぶ弓状の構造がしばしば発生し、これが金星表面の地形によって生じていることを発見したりするなど、様々な科学的成果をもたらしてきた。
一方で、2016年12月に赤外線カメラの制御回路が故障したために、これ以降はIR1(波長1μm赤外線カメラ)、IR2(同2μm赤外線カメラ)が使えない状態になっている。
JAXAでは2年間の定常運用期間を終了した後の今年8月にプロジェクトの終了審査を行い、当初予定していた軌道への投入失敗や IR1,IR2の故障はあったものの、ミッションとしてのミニマムサクセス、フルサクセスの条件は達成できたとして定常運用の終了を決定した。現在は宇宙科学研究所(ISAS)の所内プロジェクトとして、3年間の延長運用フェーズに移行している。
「あかつき」は2018年11月27日には金星周回軌道投入からの軌道周回数が通算100周を超えた。12月7日の時点で「あかつき」には姿勢制御用の燃料が1.41〜3.86kg残っており、大きな不具合などがなければ今後4〜11年間は引き続き観測が行える見込みだ。
12月7日の記者説明会では、新たな研究成果も発表された。故障前のIR2カメラで撮影された金星の夜領域の画像を解析したところ、金星の赤道付近の下層大気に、太陽の動きに連動した風が生じていることが明らかとなった。
自転する金星が太陽光を受けると、太陽に加熱される場所が自転とは逆向きに移動していく。これによって金星大気には「熱潮汐波」と呼ばれる波が自転方向に生じると考えられており、金星の大気に生じている自転速度の60倍もの高速風「スーパーローテーション」も、この熱潮汐波が原因だという説が提唱されている。今回の発見は、熱潮汐波の影響が金星の下層大気にまで及んでいることを示唆するものだ。
(文:中野太郎)
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