誕生!京都大学岡山天文台「せいめい」望遠鏡

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この夏、岡山県に東アジア“最大”となる京都大学の光学赤外線望遠鏡「せいめい」が誕生した。世界初の独自技術によって開発された注目の望遠鏡だ。

【2018年9月14日 星ナビ編集部

解説・写真:梅本真由美さん

京都大学岡山天文台「せいめい望遠鏡」が設置されたのは、国立天文台岡山天体物理観測所(岡山県浅口市)の隣接地である。188cm望遠鏡のドームから徒歩3分ほどの場所だ。愛称「せいめい」の由来の一つは、平安時代の陰陽師・天文博士であった安倍晴明である。京の都に住んでいた安倍晴明は、岡山天文台の近くにある阿部山で観測をしたと伝えられており、京都と岡山の両方にゆかりのある名前は、「京都大学岡山天文台」としてもピッタリだ。

「せいめい望遠鏡」の望遠鏡ドーム
「せいめい望遠鏡」の望遠鏡ドーム。愛称が決まる前までは、京都大学3.8m新技術望遠鏡などと呼ばれていた

せいめい望遠鏡には、様々な新技術が盛り込まれている。1つ目は、100億光年以上も離れた天体を観測する上で中枢を担う主鏡。国内初となる18枚の分割鏡で、研削加工という世界初の新技術によって全体の加工時間を短縮しながら、ナノメートルレベルでの表面加工精度を実現している。そして、可視近赤外望遠鏡では世界初となる「花びら形」を採用している。

2つ目が、観測状況に合わせて複数の分割鏡を高精度に制御する技術だ。鏡の裏をホイフルツリーという支持機構で支え、鏡面の歪みやずれを自動的に検知して補正する。

3つ目は、望遠鏡が天体を高速かつ正確に追えるようにするための、軽くて丈夫な架台だ。世界初の試みとして、架台設計には「遺伝的アルゴリズム」が用いられている。その結果、十分な構造強度を持ち、頑丈で劣化が起こりにくく、しかも重さは従来の数分の一という超軽量架台を実現した。

せいめい望遠鏡の架台
遺伝的アルゴリズムによって設計された、せいめい望遠鏡の架台。「遺伝的アルゴリズム」とは、コンピューターのプログラミングにおいて、生物の進化の過程や自然淘汰を模すことによって最適解を導く手法

こうして培われた様々な技術は、将来の超大型30m~100m級望遠鏡の基礎技術となる。天文学の発展だけでなく、日本の産業界にも大きく貢献するだろう。

せいめい望遠鏡は、宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストの追跡観測や、長時間モニター観測を使っての太陽系外惑星の探査に大いに活躍することが期待されている。

※「星ナビ」11月号(10月5日発売予定)で、詳細記事を掲載します。