晴れてきた火星の砂嵐

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5月30日以来観測されている火星の大規模なダストストームは勢いが収まりつつある。今後、通信が途絶している探査ローバー「オポチュニティ」の復旧が試みられる予定だ。

【2018年9月4日 NASA JPLMalin Space Science Systems

火星で5月30日ごろに発生したダストストーム(砂嵐)はその後火星のほぼ全域に拡大した。15年ぶりの火星大接近として各地で観望会が行われたが、天体望遠鏡で火星を観察しても表面の模様がほとんど見えず、がっかりした人もいるだろう。

このダストストームの影響は火星探査にも影響を与えている。とくに、火星のエンデバー・クレーターの西縁にあるパーサヴィアランス谷(Perseverance Valley)を探査しているNASAのローバー「オポチュニティ」は、6月10日を最後に通信が途絶したままだ。ダストストームによってオポチュニティの太陽電池の発電量が減り、電源が落ちたものとみられている。

しかし、ここに来てようやくこのダストストームが収まりつつあるようだ。

「パーサヴィアランス谷には砂嵐の『もや』を通して太陽光が射し始めています。間もなく、オポチュニティのバッテリーを再充電できるほどの日射量になるでしょう。大気の光学的距離τ(タウ:大気中の浮遊微粒子の量を表す指標。およそτ=1を超えると大気が不透明とされる)が1.5まで下がったら、NASAの深宇宙ネットワークのアンテナでオポチュニティにコマンドを送信する予定です。オポチュニティからの信号が返ってきたら、ローバーの状況診断を開始して通信を復旧させます」(オポチュニティプロジェクトマネージャー John Callasさん)。

オポチュニティミッションの技術者たちは現在、NASAの火星周回機「マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)」の多色カメラ「MARCI」の撮影画像を分析して得られたオポチュニティ上空のτの推定値を参考にしている。

「今年発生した全球規模のダストストームによるもやは、過去に記録された火星の砂嵐の中でも最も広範囲に広がった現象の一つとなりました。しかし観測データからは、今回の砂嵐がようやく終息に向かいつつあることが示されています。オポチュニティの地点を撮影したMARCIの画像を見る限り、この地点の3000km以内で活発なダストストームはここしばらく発生していません」(MROプロジェクト科学者 Rich Zurekさん)。

MROで撮影された火星
MROのMARCIで撮影された火星表面。白い丸印がオポチュニティの地点。黒い領域は画像データのない部分。(左)オポチュニティの交信途絶から3日後の2018年6月13日、(右)2018年8月26日。黄色いもやが晴れ始めている。画像クリックで表示拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/Malin Space Science Systems)

Callasさんたちは、空が晴れてきたことでオポチュニティが再び地球に信号を送ってくることを期待しているが、同時に通信途絶が続いた場合にも備えている。

「もし45日経ってもオポチュニティからの信号が回復しない場合には、日射量の低下と火星の低温のせいでオポチュニティに何らかの障害が発生しており、復旧は難しいと結論せざるを得ないでしょう。そうなれば、こちらからオポチュニティの復旧を試みる活動は終了する予定です。しかし、ローバーの機体は正常で、太陽電池に塵が積もって太陽光を受けられないだけだという可能性もわずかながらあるので、オポチュニティからの信号を待ち受ける体制は数か月間続けます」(Callasさん)。

復旧に成功しなかった場合でも数か月間にわたって信号を待ち受けるのは、火星表面で発生する「ダストデビル」(つむじ風)がオポチュニティの太陽電池を「掃除」してくれる可能性があるからだ。このような「洗車」現象が起こることは2004年に初めて明らかになった。ローバーのバッテリーの電力量は年月とともに減っていくのが普通だが、オポチュニティや同型機「スピリット」の電力量が一晩で数%も増えるという現象がこれまでに何度が起こっており、ダストデビルによって太陽電池の砂塵が吹き飛ばされたためだと考えられている。こうしたダストデビルは両ローバーや火星上空を周回する探査機の画像にとらえられている。

2017年2月に探査車「キュリオシティ」が撮影した火星のダストデビル(提供:NASA/JPL-Caltech/TAMU)

今回の通信途絶の根本原因が太陽電池に積もった砂塵だという可能性はあまり高くないが、JPLの電波科学グループでは、オポチュニティから送られる電波を高感度・広帯域の電波受信機で毎日探し続ける予定だ。

仮にオポチュニティからの信号を再び受信できたとしても、その後オポチュニティを運用できる保証はない。今回のダストストームのせいで発電能力やバッテリーの性能が低下したり、予想外の障害が生じたりしているかもしれない。その場合にはオポチュニティが完全に生き返るのは難しいかもしれない。

ここ数か月のオポチュニティ周辺の状況は危機的なものだったが、運用チームは慎重でありながらも事態を楽観している。これまで14年以上にわたって、オポチュニティは困難な状況を何度も乗り越えてきたからだ。オポチュニティは右の前輪が2005年に、左の前輪が2017年6月に故障し、前輪の操舵が効かなくなっている。ローバーに搭載されている256MBのフラッシュメモリもすでに使えない。オポチュニティとスピリットの設計寿命は90日で、機体のどの部分も想定していた動作寿命を大幅に超えているのだ(スピリットは設計寿命の20倍、オポチュニティは60倍も長生きしている)。当初想定された走行距離は約900mだったが、オポチュニティは約45kmも走行している。良いときも悪いときも、運用チームは2機のローバーを見守り続けてきた。今、オポチュニティの技術者・科学者たちは、今回の困難もこれまで両機が乗り越えてきたのと同じ「路上のこぶ」の一つだと思っている。

「こういう状況では、最良の結果を期待しつつ、あらゆる事態に備えておくものです。私たちはこの粘り強いローバーが困難からもう一度抜け出すことを応援しています。もしうまく抜け出してくれたら、私たちはその場にいてその声を聞きたいですね」(Callasさん)。

(文:中野太郎)

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