初期宇宙は銀河が少ない場所ほど不透明

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中性水素ガスによって紫外線が強く吸収されている初期宇宙のクエーサー周辺を観測したところ、銀河の個数が平均よりも少ないことがわかった。銀河からの紫外線が弱いために中性水素ガスが電離されずに残っているようだ。

【2018年8月20日 カリフォルニア大学リバーサイド校

ビッグバンから数億年後の宇宙では、暗黒物質以外の通常の物質(バリオン)は中性の水素・ヘリウム原子の形で存在していた。その後、強い紫外線を放射する恒星や銀河などの第一世代の天体が生まれたことで中性原子は電離された。この「宇宙の再電離」は、ビッグバンから10億年ほど経った約125億年前(赤方偏移がz=6付近の時代)にほぼ終わったと考えられている。現在の宇宙では、銀河と銀河の間に存在している希薄な銀河間ガスはすでにほぼ完全に電離しているため、紫外線を吸収して電離することはない。つまり紫外線に対しては透明だ。

しかし、再電離が終わった125億年前ごろのクエーサーを宇宙の様々な方向で観測すると、クエーサーが放射する紫外線が中性水素ガスによって強く吸収され、「ガン・ピーターソンの谷」と呼ばれる吸収帯がスペクトルに見られることがある。つまり、この時代の銀河間ガスは、場所によっては中性水素が残っていて、紫外線に対する透明度が非常に大きくばらついているのだ。2015年には、英・ケンブリッジ大学(当時)のGeorge Beckerさんたちの研究チームが、うお座方向に位置するこの時代のクエーサーULAS J0148+0600のスペクトルに巨大な「ガン・ピーターソンの谷」を発見し、このクエーサーの手前に紫外線の吸収領域が3億光年もの厚さで存在していることを明らかにした。

Beckerさんたちは、この時代の宇宙で紫外線に対する透明度が場所ごとにこれほど大きく違うのは、中性水素ガスの量自体が大きく違っているか、あるいは周囲の空間を満たしている紫外線の強さが場所によって大きく異なるせいだと考えた。「今日の私たちはかなり均一な宇宙に住んでいます。どの方向を見ても、平均してほぼ同じ数の銀河が存在し、銀河間ガスの特徴も似ています。しかし初期の宇宙では、銀河間ガスの様子は場所ごとに大きく異なっていました」(Beckerさん)。

当時の宇宙の銀河間ガスにこのような違いがある原因を探るため、Beckerさんたちは米・ハワイのすばる望遠鏡を使って、ULAS J0148+0600の周囲にどれくらいの銀河が存在しているかを調べた。

宇宙に存在する銀河や銀河団は「大規模構造」と呼ばれる網の目のような形で分布している。銀河などの天体は網目の糸に当たる「フィラメント」という領域に多く存在していて、網目の間の部分には天体がほとんど存在しない「ボイド」という領域がある。こうした大規模構造を考えると、不透明な領域ほどガスの量が多く、銀河の数も多いことになる。

宇宙の大規模構造
コンピューターシミュレーションで再現された宇宙の大規模構造。物質密度の低い領域「ボイド」を取り囲むように、多くの銀河を含む密度の高い「フィラメント」が網目状に存在している(提供:TNG Collaboration)

しかし、研究チームが観測した領域では逆に、銀河の数が平均より少ないことが明らかになった。銀河が少ないことが、このクエーサーの周辺に巨大な不透明領域がある原因かもしれない。

「宇宙空間の透明度を考える際に、周辺にどれくらいの数の銀河が存在するのかというのは普通は関係ありません。銀河間ガスを透明に保っている紫外線はずっとずっと遠くの銀河から放射されたものだからです。このことは宇宙の歴史のほとんどの時代に当てはまります。しかし宇宙のごく初期では中性水素の量がまだ多く、紫外線はあまり長い距離を進むことができないため、銀河が少ない場所では銀河が多い場所よりも透明度がずっと低く見えるのかもしれません」(Beckerさん)。

銀河の数が多い場所では、宇宙の再電離も早く始まったと考えられる。したがって、銀河間空間での紫外線の強さが場所ごとにばらついているという観測結果は、再電離の進み具合が場所ごとに異なっていた名残なのかもしれない。今回の結果は、第一世代の銀河がいつ誕生し、宇宙の再電離がいつ、どのように始まったのかという謎についても手がかりを与えてくれる可能性がある。