宇宙が5億歳だったころの銀河の光

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【2012年9月21日 NASA

2つの天文衛星の性能に重力レンズという自然の拡大鏡が加わって、137億前に生まれた宇宙がまだ5億歳だったころの若い銀河の光がとらえられた。


(左)銀河団MACS J1149+2223、(右)発見された遠方銀河 MACS 1149-JD

重力レンズの役割を果たした銀河団(左)と、それによって増幅して見える遠方銀河MACS 1149-JD(右)。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, W. Zheng (JHU), M. Postman (STScI), and the CLASH Team)

米・ジョンズ・ホプキンス大学のWei Zheng氏らが発見した小さくかすかな銀河の光は、132億光年を旅して地球に届いたもの。つまりこの光が発せられたのは、この宇宙が現在の年齢の3.6%だったころだ。これは「暗黒時代の終わり」という宇宙の歴史においてとても重要な時期であり、宇宙は星のない真っ暗闇の広がりから、銀河がひしめく場所へと変化していったのである。

過去にも同じような年代の銀河の候補が検出されたが、単独の波長でしかとらえられていなかった。しかし今回は、5つの異なる波長で観測された。「CLASH」プロジェクト(ハッブルによる銀河団拡大観測および超新星サーベイ)の一環として、ハッブル宇宙望遠鏡は4つの可視・赤外線波長域で銀河を観測・記録。赤外線天文衛星「スピッツァー」は、より長い波長の赤外線で測定を行った。

極限の距離にあるといえるような遠方の天体のほとんどは、今日稼動している大型望遠鏡では検出することはできず、その姿をとらえるには重力レンズの助けが必要だ。「重力レンズ」とは、地球から見て手前にある天体の重力の影響で、向こう側にある天体の姿や光が移動したり、変形したりして見える現象だ。今回発見された銀河と天の川銀河の間に巨大銀河団が位置していたために、小さな銀河からの光が増幅され、実際の15倍も明るく見えたのである。

観測によれば、しし座方向にあるこの遠方銀河の年齢は2億歳以下で、質量は天の川銀河の1%ほどしかないという。一般に支持されている説によれば、宇宙で最初の銀河はとても小さく、その銀河同士が合体を繰り返して、やがて現在見られるような大きさにまで成長していったと考えらえている。

このような銀河は、宇宙の再電離に大きな役割を果たしたようだ。再電離とは、宇宙で最初に誕生した星や銀河から放たれる紫外線によって、中性水素が再び電子と陽子に分けられ(電離し)、宇宙の暗黒時代が終わりを告げた時期のことだ。

ビッグバンから約40万年が経過したころ、宇宙は膨張とともに温度が下がり、原子核と電子が結合して中性の水素ガスが形成された。その数億年後、宇宙で最初に輝いた星とそれらの星を育んだ銀河が誕生した。宇宙で最初の銀河から放射されたエネルギーにより中性水素ガスは電子を剥ぎとられ(電離)、現在に至るまでイオン化した状態となっている。

「この銀河は、高い信頼度で観測された、これまででもっとも遠い天体です。今後このような銀河が、宇宙で最初に誕生した天体や宇宙の“暗黒時代”がどのようにして終わったのかについての研究を可能にしてくれるでしょう」(Zheng氏)。