超大質量ブラックホールへのガス降着の鍵は超新星爆発?

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銀河中心の超大質量ブラックホールの周囲に広がる高密度分子ガス円盤が、ブラックホールへの質量の供給源として重要であることが初めて示された。円盤で発生する超新星爆発がブラックホールの成長を駆動するという理論予測を観測的に支持するもので、超大質量ブラックホールの起源の解明につながる観測結果である。

【2016年8月15日 東京大学アルマ望遠鏡

多くの銀河の中心には、太陽の100万倍以上もの質量を持つ超大質量ブラックホールが普遍的に存在している。しかし、その形成過程は謎に包まれており、現代天文学が解決すべき最重要テーマの一つとなっている。また、中心部での星形成が活発な銀河ほど銀河中心ブラックホールへのガス質量降着率も大きい(ブラックホールに落ち込むガスの量が多い)ことが知られているが、この2つの現象を結びつける物理機構はわかっていない。

東京大学大学院理学系研究科の泉拓磨さん、河野孝太郎さん、呉工業高等専門学校の川勝望さんの研究チームは、アルマ望遠鏡などで得た高解像度の電波観測データを解析し、近傍宇宙に存在する銀河10個の中心に潜む超大質量ブラックホールについて、その周囲数百光年にわたって広がる低温・高密度の分子ガス円盤を調べた。

(左)NGC 7469の可視光線画像、(右)NGC 7469の中心領域におけるシアン化水素分子輝線の強度分布図(擬似カラー)
(左)今回調査された銀河の一つ、ぺガスス座に位置するNGC 7469の可視光線画像、(右)NGC 7469の中心領域におけるシアン化水素分子輝線の強度分布図(擬似カラー)。中心の十字が超大質量ブラックホールの位置(提供:(左)NASA, ESA, Hubble Heritage (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration, and A.Evans、(右)東京大学、アルマ望遠鏡)

解析から、シアン化水素分子輝線の電波強度から見積もった「高密度分子ガス円盤の質量」と、別の観測で知られている「超大質量ブラックホールへのガス質量降着率」に、強い正の相関があることが明らかになった。また、別に見積もった「銀河全体の高密度ガスの総量」と「ブラックホールへのガス質量降着率」には相関が見られなかった。超大質量ブラックホール成長に重要なガス質量の供給源として、中心部の小さな高密度分子ガス円盤こそが重要な機能を果たしていることを示す結果である。

さらに、「高密度分子ガス円盤内で形成された大質量星が超新星爆発を起こし、ガス中に強い乱流が発生することで、さらに内側へのガス供給が促進される」という理論モデルと、実際の観測データをもとに、高密度分子ガス円盤からさらに内側に流入するガス質量を計算した。この値を超大質量ブラックホール近傍で実際に消費されているガスの総量(ブラックホールの成長に使われる質量とブラックホール近傍で発生する強い放射で外部に吹き飛ばされてしまう質量の合計)と比較したところ、これら2つの量は一致した。

この理論モデルでは、超新星爆発(星形成と関連する現象)がガス質量降着のかぎとなっており、「中心部での星形成が活発な銀河ほど銀河中心ブラックホールへのガス質量降着率も大きい」ことを自然と説明できる。今回の結果は、観測からこのモデル予測を裏付けるものだ。

銀河中心部で起こっている超大質量ブラックホールへのガス質量降着過程の想像図
銀河中心部で起こっている超大質量ブラックホールへのガス質量降着過程の想像図。高密度分子ガス円盤中で発生した超新星爆発が周囲に強い乱流を引き起こし、安定な運動を妨げられたガスが中心に向かって流入する様子を表している(出典:東京大学プレスリリース)

超大質量ブラックホールと星成分の研究に低温高密度分子ガスの観測を加えることで、銀河中心数百光年以内の小さい領域におけるガス質量の流入・流出の収支が初めて整合的に説明された。今後、アルマ望遠鏡等を用いた遠方ブラックホールの詳細な観測から、宇宙の古今にわたるブラックホールの成長の包括的な理解が進むと期待される。

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