ブラックホール・ジェットの源をかつてない分解能で撮影

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地上の電波望遠鏡と電波天文衛星を組み合わせた観測で、活動銀河の中心核から光速に近い速度で噴き出すジェットがきわめて高い分解能でとらえられた。

【2018年4月6日 アールト大学

質量の大きな銀河の中心には、最大で太陽質量の数十億倍にも達する超大質量ブラックホールが存在すると考えられている。このようなブラックホールには光速に近い速度でプラズマのジェットを放出するものがあり、こうしたジェットは母銀河から遠く離れたところまで延びていることが知られている。しかし、このようなジェットがどのように形成されるのかは長年にわたって謎のままだ。

ジェットの構造を画像でとらえることができれば理論や数値モデルとの比較が可能になるが、これまではジェットの放出源近くの構造を高い分解能で撮影することが難しかった。

イタリア国立天体物理研究所のGabriele Giovanniniさんたちの国際研究チームは、口径10mのアンテナを持つロシアの電波天文衛星「スペクトルR」と世界各地の約20基の電波望遠鏡を組み合わせた「RadioAstron」のシステムを使って、地球から2億3000万光年の距離にあり、ペルセウス座銀河団の中心に位置する電波銀河「ペルセウス座A(NGC 1275、3C 84)」の超大質量ブラックホールから放出されるジェットを30マイクロ秒角(=満月の6000万分の1)という高い角分解能で撮像することに成功した。

RadioAstronでは、地球上の複数の電波望遠鏡で受信した信号と人工衛星で受信した電波とを組み合わせる「スペースVLBI」と呼ばれる手法を用いて、口径が35万km(地球から月までの距離とほぼ同じ)という巨大な電波望遠鏡に相当するきわめて高い角分解能を実現している。今回得られた電波画像では、中心ブラックホールの半径の数百倍の長さまで見分けることができる。これは過去の観測より10倍も分解能が高く、これによってジェットが生み出される領域の姿が詳細に明らかになった。

観測の概念図とジェットの電波画像
(左)宇宙と地上の電波望遠鏡で対象を観測するRadioAstronの概念図。(右)ペルセウス座Aのブラックホール(上部の明るい緑色の領域)から噴き出すジェットの電波画像。ジェットの長さは約3光年に達する(右下のスケールが0.3光年に相当)(提供:Pier Raffaele Platania INAF/IRA(画像編集); ASC Lebedev Institute(RadioAstronによる電波画像))

「今回得られた結果は驚くべきものです。現在支持されているモデルでは、ジェットが生み出されるのはブラックホールのすぐそばの『エルゴ領域』と呼ばれる場所だと考えられていましたが、今回観測されたジェットの幅はこのモデルから想定されるものよりもかなり広いことが明らかになりました」(Giovanniniさん)。

この結果は、少なくともジェットの外側の物質はブラックホール本体ではなく、ブラックホールの周りを取り囲む降着円盤から放出されていることを示唆しているのかもしれない。「私たちの観測結果は、ジェットはエルゴ領域から放出されるという現在のモデルを直ちに覆すものではありませんが、ジェットの放出源の構造について新たな見方をもたらし、今後のモデルの発展に関する手がかりになると期待しています」(フィンランド・アールト大学 Tuomas Savolainenさん)。

またGiovanniniさんたちは、ペルセウス座Aのジェットの構造が、おとめ座の巨大楕円銀河M87のジェットとかなり異なっていることも明らかにした。M87は地球から約5000万光年という比較的近い距離にある銀河で、この銀河のジェットはこれまでで唯一、超大質量ブラックホールに近い領域の構造まで撮影されている。研究チームでは、両者の違いはジェットの年齢差に理由があると考えている。

「ペルセウス座Aのジェットは10年ほど前に放出を再開したばかりで、現在もまだ放出が続いています。ジェットのごく初期の成長を追跡できる珍しい機会なので、観測を継続することが非常に大事です」(台湾・中央研究院 中村雅徳さん)。

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