彗星からキセノン検出、太古の地球大気と関係

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彗星探査機「ロゼッタ」がチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星にキセノンの同位体を検出した。彗星と原始地球の大気との関連を示す結果だ。

【2017年6月13日 ESA

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の彗星探査機「ロゼッタ」は2014年8月にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)に到着し、その後約2年にわたって彗星の観測を続けた。そして2016年、キセノンの放射性同位体などを検出した。

チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星
2016年5月にロゼッタが撮影したチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(67P)(提供:ESA/Rosetta/NAVCAM, CC BY-SA IGO 3.0)

キセノンは色も香りもない希ガスで、低質量から中質量の星の進化の終期や超新星爆発などで作られる物質だ。その起源によって様々な放射性同位体となって存在する一方、他の物質とは化学変化を起こさないため、同位体の量を調べることでキセノンの由来を調べることができる。これまでにキセノンは地球や火星の大気、小惑星由来の隕石、木星、太陽風の中など様々なところから採取され、太陽や惑星起源の物質の追跡調査や太陽系の初期の組成などを調べるために利用されてきた。

現在の地球大気全体に占めるキセノンの割合は数十億分の1以下しかなく、同位体同士の比較では重いものを豊富に含んでいる。本来含まれていたはずの軽い同位体は宇宙空間へ逃げていったのだ。失われた分を補正したモデル計算によると、太陽系形成の初期に地球にもたらされたと考えられている原始的な希ガスの混合物質「U-キセノン」の組成について、軽い放射性同位体の割合は小惑星や太陽風と似ているものの、重い放射性同位体の量はかなり小さいことが示されていた。

「このような理由から私たちは、原始の地球大気中に存在していたキセノンは、太陽系で見つかる平均的な希ガス混合物とは異なる起源を持つのではないかと考えたのです」(仏・ロレーヌ大学 Bernard Martyさん)。

太陽系のキセノンは今の太陽系を作るもととなった原始太陽系星雲に直接由来する一方で、地球の大気中に発見されるキセノンはもっと後の段階で彗星によってもたらされたという考え方がある。ロゼッタが探査で検出したのは、まさにこの仮説を検証するために必要なデータだった。

データ分析から、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星上のキセノンの混合物には重い放射性同位体より軽いものが多く含まれており、太陽系の平均的な混合物とは大きく異なっていることが明らかになった。同時に、このキセノンの同位体比は現在の地球大気中に存在するものとも異なっており、原始の地球大気中に存在していたと考えられているU-キセノンに近いようだ。

「実にエキサイティングな結果です。U-キセノンという仮説の物質に対して、初めてその候補が発見されたからです。組成にはいくつかの不一致があることから、原始的なキセノンは彗星だけでなく小惑星も含めた天体の衝突が由来である可能性が示唆されます」(Martyさん)。太陽や惑星と彗星とでキセノンの同位体比が異なるのは、原始太陽系星雲が科学的に不均一だったためかもしれない。

ロゼッタのデータは、太古の地球の大気中に含まれるキセノンの約5分の1が彗星によってもたらされた可能性を示唆している。キセノンは、彗星が46億年前の太陽系形成時に地球へ物質をもたらしたかどうかという長年の疑問に対する鍵を握っていると言えそうだ。「ロゼッタが取得したデータの詳細な分析は、『太陽系の形成と初期の進化につながる定量的な手がかりの発見』という、同探査機によるミッションが目指したゴールの一つに取り組むものです」(ロゼッタ・プロジェクトサイエンティスト Matt Taylorさん)。

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