「富岳」、太陽の自転周期を再現することに成功

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スーパーコンピューター「富岳」を使った数値シミュレーションから、太陽の表面で赤道の方が極地方よりも速く自転している現象が初めて再現された。

【2021年9月22日 千葉大学

固い地面を持つ地球上はどこを見ても1日周期で自転しているが、太陽では緯度によって自転の様子が異なり、約25日で自転する赤道付近の方が30日程度の極地方より速い。このような「差動回転」は1630年ごろから知られていたが、計算で再現することはできていなかった。

太陽中心部での核融合反応で作られたエネルギーは、太陽半径の70%ほどまでは光によって運ばれる。そこから表面までの30%を占める対流層では、ガスが風呂のお湯のように対流を起こすことで運んでいる。この対流は整然としているのではなく、大小様々な渦を含む乱流になっていて、正確に計算するのが難しい。2019年まで使われていたスーパーコンピューター「京」は太陽内部を約1億個の点に分けて数値シミュレーションを行うことができたが、それでも実際の太陽とは逆に極地方が速く回転し、赤道が遅くなる結果になってしまっていた。

千葉大学の堀田英之さんと名古屋大学宇宙地球環境研究所の草野完也さんは、京を引き継いだスーパーコンピューター「富岳」を用いることで初めて可能になった超高解像度計算により、太陽対流層全体を54億の点に解像した計算を行った。その結果、太陽と同じく赤道が速く回転する差動回転の再現に初めて成功した。

差動回転の様子
シミュレーションで再現された差動回転の様子。経度方向に平均した子午面上の値を示したもので、色は角速度を表し、黄色になるほど速い自転速度(短い自転周期)を示す(提供:千葉大学リリース、以下同)

富岳による計算から、太陽内部の磁場エネルギーは最大で乱流のエネルギーの2倍以上にもなり、差動回転の形成と維持において大きな役割を果たしていることが明らかになった。磁場は小さくて脇役に過ぎないという従来の計算に基づく考えをくつがえす結果だ。

太陽内部熱対流の様子と磁場の強さ
シミュレーションで再現された太陽内部熱対流の様子。(左)熱対流を表現するのに適したエントロピーという量を示したもの(オレンジ、青の部分はそれぞれ暖かい・冷たい領域に対応)。(右)磁場の強さを表したもの

今回、高い解像度で太陽の差動回転を再現することに成功したが、まだ「富岳」の全ての力を使ったわけではない。太陽の差動回転は黒点の形成や太陽活動の11年周期にも深く関わっていることから、さらなる高解像度計算を実施することで残された謎に挑むことが期待される。

「この問題の解決は、もう少し時間がかかると予想していたので、『富岳』での初めての計算で再現を達成できたことは、喜ばしいとともに非常に大きな驚きでした。太陽の差動回転は、太陽物理学最大の謎『太陽活動11年周期』と密接に関連しています。引き続き研究を進めていきたいと思います」(堀田さん)。

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