最初の恒星間彗星は最も始原的な彗星

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彗星として観測史上初めて太陽系外から飛来したボリソフ彗星は2019年12月に太陽へ接近したが、同彗星が恒星に近づいたのはこれが初めてだったようだ。

【2021年4月6日 ヨーロッパ南天天文台

これまでに見つかった彗星は、ただ1つの例外を除いて全て太陽系の外縁部で誕生したものと考えられている。彗星が太陽に接近して氷が蒸発すると、誕生以来ずっと彗星に閉じ込められていたガスや塵が放出され、尾として観測される。そうした意味で、彗星は太陽系が生まれたときの情報をもたらしてくれる、始原的な天体だと言えるだろう。

そんな彗星も、繰り返し太陽に接近すれば、太陽からの放射や太陽風にさらされることで成分が変化していくため、始原的な状態が失われていく。これまでに見つかった彗星の中で最も始原的だったと言えるのは1997年に太陽へ接近した大彗星、ヘール・ボップ彗星(C/1995 O1)で、1997年以前には一度だけ太陽に近づいていたと考えられている。

2019年8月に見つかり、同年12月に太陽へ接近したボリソフ彗星(2I/Borisov)は、太陽系外から飛来したことが判明した初めての彗星である。そして、このたびアイルランド・アーマー天文台のStefano Bagnuloさんたちの研究チームが明らかにしたところによれば、ボリソフ彗星はそれ以前に他の恒星に接近したことがなく、真の意味で始原的な彗星だったようだ。

ボリソフ彗星
2019年にVLTがとらえたボリソフ彗星。彗星の移動に合わせて合成してあるため背景の星は線状に写っている(提供:ESO/O. Hainaut)

Bagnuloさんたちはヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTを用いて、ボリソフ彗星のスペクトルと偏光(光の波の振動方向が、塵の粒に反射するなどの要因で決まった方向にそろう傾向)を詳細に調べた。その結果、ボリソフ彗星の偏光特性はヘール・ボップ彗星以外のどの彗星とも異なることがわかった。ボリソフ彗星がヘール・ボップ彗星のように始原的な彗星であることを示す結果である。

彗星のスペクトルも合わせて分析すると、ボリソフ彗星はヘール・ボップ彗星よりもさらに始原的で、太陽系に飛来する前に一度も恒星に近づいたことがない可能性が高いという。ボリソフ彗星は誕生したときの情報を全く手つかずのまま太陽系へ運んできたのだ。

「2つの彗星が極めて良く似ているということは、ボリソフ彗星が生まれた環境と太陽系初期の環境が、組成という点でそれほど大きく違わないことを示唆しています」(伊・トリノ天文台 Alberto Cellinoさん)。

ではボリソフ彗星が生まれた惑星系の環境はどのようなものだったのだろうか。

ESOのBin Yangさんたちの研究チームが、アルマ望遠鏡とVLTの観測データを用いてボリソフ彗星から放出された塵の粒子を調べたところ、大きさ1mmを超える、小さな砂利程度の塊が見つかった。さらに、彗星が太陽に近づくにつれて、観測される一酸化炭素と水の割合が劇的に変化していたこともわかった。研究チームによれば、これはボリソフ彗星が惑星系の異なる場所に由来する物質で構成されている証拠だという。つまり、ボリソフ彗星は誕生直後に中心の星から近い所と遠い所の間で引っ越していたことになる。

Yangさんたちは、ボリソフ彗星の故郷では惑星系の物質が巨大な惑星の重力でかき乱されたのではないかと考えている。同様のプロセスは、太陽系形成初期にも起こった可能性が指摘されている。

ボリソフ彗星の想像図
ボリソフ彗星の想像図(提供:ESO/M. Kormesser)

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