ベテルギウスと比べても桁違い、おおいぬ座VY星の質量放出

このエントリーをはてなブックマークに追加
最大級の恒星おおいぬ座VY星の周囲に過去200年以内に放出されたガスや塵が見つかり、観測記録に残る大幅な減光と関連付けられることがわかった。

【2021年3月11日 HubbleSite

約5000光年彼方に位置する、おおいぬ座VY星は、既知の恒星では最大級の天体であり、仮に太陽の位置にあったとすれば木星を飲み込んでしまうほど大きい。光度も太陽の約30万倍あり、単なる赤色超巨星ではなく、時として「赤色極超巨星(Red hypergiant)」という分類が用いられることもある。

代表的な赤色超巨星であるオリオン座のベテルギウスと比べても、おおいぬ座VY星は倍近い直径を誇る。ベテルギウスといえば2020年に1等級から2等級へ落ちるほどの減光を見せたことが記憶に新しい(参照:「2等星に陥落!ベテルギウス減光のゆくえ」)。一方、ベテルギウスの10倍程度遠くにあるおおいぬ座VY星は見かけ上とても暗く、それでも200年前はかろうじて肉眼で見える程度の明るさだったが、今では天体望遠鏡が必要なほど暗くなっている。

ベテルギウスの減光は表面から塵が放出されたことによるものだとわかっているが(参照:「ベテルギウスの減光は大量の物質放出が原因」)、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)による観測と研究を続けてきた米・ミネソタ大学のRoberta Humphreysさんたちの研究チームによれば、おおいぬ座VY星でも似たことが起こっているらしい。ただし、その規模はベテルギウスとは桁違いのようだ。

おおいぬ座VY星の周りには、太陽のプロミネンスを何万倍にも拡大したかのようなプラズマの弧が広がっている。プロミネンスと違うのは、これらの構造がおおいぬ座VY星本体にはつながっておらず、遠ざかりつつあることだ。他にもガスや塵の塊などが見られる。

それらの構造がいつおおいぬ座VY星から放出されたのかを調べてきたHumphreysさんたちによれば、質量放出は過去数百年にわたって起こっていて、中には放出されて100年未満の塊もあるという。おおいぬ座VY星は過去200年に明るさが約6分の1まで落ちるような減光を何度か起こしているが、研究チームはそれらの記録と恒星周辺の構造を結びつけることに成功した。

おおいぬ座VY星
(左)おおいぬ座VY星が放出した物質によってできた、差し渡し数兆kmの巨大な星雲。(中)星周囲のクローズアップ。爆発的なプロセスで放出されたガスの塊や孤、フィラメントといった構造が見られる。画像中心の小さな赤い四角(60au=海王星の軌道直径に相当)がおおいぬ座VY星の位置。(右)おおいぬ座VY星のような「赤色極超巨星」の想像図。表面に対流細胞が見られ、激しく物質が噴出している。画像クリックで表示拡大(提供:NASA, ESA, and R. Humphreys (University of Minnesota), and J. Olmsted (STScI))

おおいぬ座VY星からの質量放出は、ベテルギウスの100倍の規模で起こっている。また、ガスの塊の一部は質量が木星の2倍以上もある。ガスや塵が吹き飛ばされるのは、星の表面付近で起こる対流などの活動によるものだと考えられる。そのメカニズム自体は多くの赤色超巨星に共通しているかもしれないが、おおいぬ座VY星は極端な例だと言えそうだ。これだけのペースで質量を失っている恒星はあまりない。おおいぬ座VY星がこれほどまでに活発な時期はせいぜい数千年程度しか続かないかもしれないという。それだけ珍しい恒星なのだ。

おおいぬ座VY星は誕生したときは約35~40太陽質量の青色超巨星だったとみられる。今ではその質量の半分が失われているかもしれない。将来は超新星爆発を起こさず、直接ブラックホールに収縮する可能性がある。

〈参照〉

〈関連リンク〉