明らかになった大質量星の最期の姿
【2018年9月10日 国立天文台】
大質量の星が一生の最期を迎える「超新星爆発」では、星の中心で生じた衝撃波が表面に達した際に星が急激に増光する「ショックブレイクアウト」という現象が起こると理論的に予測されている。爆発直前の星の構造を詳しく解明するため、このショックブレイクアウトをとらえる試みが世界的に行われているが、増光の継続時間が数時間以下と短いために観測が難しく、現象についての理解はほとんど進んでいない。
チリ大学のFrancisco Försterさんたちの観測チームは2013年から2015年にかけて、チリ・セロ・トロロ汎米天文台のブランコ望遠鏡を用いて赤色超巨星の大規模観測を行い、ショックブレイクアウトによる増光をとらえようとした。進化の最終段階で外層が大きく膨らんだ赤色超巨星は、超新星爆発の直前の姿である。
この観測で赤色超巨星の爆発直後の超新星が26個もとらえられたが、予測されていたショックブレイクアウトによる増光は確認できなかった。一方、観測されたほとんどの超新星は、理論予測よりも早く明るくなった。こうした光度変化を見せる超新星の観測は過去にもあったが、これほど多く観測されたことは驚きだった。
国立天文台の守屋尭さんは、超新星が従来の理論予測より早く明るくなるのは爆発の数百年前に星が放出した厚いガスが原因だと考えた。そこで守屋さんは、ガスの密度や速度などの条件を変えて518通りのシミュレーションを行い、厚いガスに囲まれた超新星がどのように光るのかをFörsterさんたちの観測データと比較した。
その結果、爆発直前の赤色超巨星のすぐそばに太陽質量の約10分の1というきわめて高密度のガスが存在する場合に、今回の観測結果をよく説明できることがわかった。ショックブレイクアウトによる増光は、星を取り囲む厚いガスによって隠されてしまうために観測することが難しくなる。また、爆発時に高速で広がる噴出物がこの厚いガスに衝突する際に衝撃波が発生し、爆発から数十時間という短い時間で一気に光度が大きくなるのだ。
観測された天体の一つ、超新星「SNHiTS15aw」の明るさの時間変化。(丸印)観測データ、(破線)従来の理論予測、(実線)厚いガスに覆われている場合のシミュレーション。理論予測に比べて実際の観測ではより早く明るくなっており、観測データとシミュレーションの結果はよく一致している(提供:Förster et al. Nature Astronomy (2018)を改変)
今回の研究結果は、超新星爆発直前の赤色超巨星が何らかの理由で多くのガスを放出していること、そしてそれが普遍的な現象であることを示している。「標準的な理論では、爆発直前の星がこれほど多くの物質を一気に放出するとは考えられていませんでした。超新星爆発直前の星についての理解がこれまで不完全だったことが明らかになりました」(守屋さん)。
自身が放出した厚いガスに取り囲まれた大質量星の最期のイメージ(提供:国立天文台)
〈参照〉
- 国立天文台:明らかになった大質量星の最期の姿 ― 厚いガスに包まれた星の終焉
- Nature Astronomy:The delay of shock breakout due to circumstellar material evident in most type II supernovae 論文
〈関連リンク〉
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