渦巻銀河を人工知能で分類
【2020年8月14日 すばる望遠鏡】
渦巻銀河の渦がS字型(右巻き)かZ字型(左巻き)かは、その銀河をどちら側から見るかによって変わる。仮に銀河形成時の向きがランダムに決まるのであれば、地球から見てS字の銀河もZ字の銀河も同じ数だけ存在するはずだ。
過去の研究では一方が多いと報告するものがある。これが事実だとすれば、広範囲にわたって銀河の向きに影響を与える作用が存在することになり、「大局的に見れば宇宙は一様で等方的」という現代宇宙論の前提が崩れてしまう。しかしこの偏りは、人間が渦巻きの有無や向きを判定する際に無意識のうちに生じているという可能性も提唱されていた。
国立天文台の但木謙一さんたちの研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム ・カム(Hyper Suprime-Cam; HSC)」を用いた大規模探査「すばる戦略枠プログラム(HSC-SSP)」がとらえた膨大な数の銀河を調査した。従来の研究では、口径2.5mの望遠鏡によるスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)のデータが使用されてきたが、これと比べてすばる望遠鏡+HSCのデータは解像度は2倍、感度は36倍も高く、SDSSの観測画像では判別不可能だった25億光年以上離れた銀河も分析可能となる。
SDSSとHSCで観測した同じ渦巻銀河画像の比較。HSCの解像度は2倍、感度は36倍高い(観測波長のiバンドで比較)(提供:(左)Sloan Digital Sky Survey、(右)国立天文台/HSC-SSP/M. Koike)
ただし、HSCの画像からは56万個もの銀河が検出されており、全てを人間の眼で判別しようとすると大変な労力を要する。そこで但木さんたちは、機械がデータから特徴を自動的に抽出して学習しながら画像を分類する技術を観測データに適用した。その結果、8万個近い渦巻銀河が検出され、S字型とZ字型がほぼ半々であることを突き止めた。
すばる望遠鏡HSCの観測画像から自動で分類された、25億光年以上彼方にあるS字型の渦巻銀河とZ字型の渦巻銀河(提供:Tadaki et al./国立天文台)
あらかじめ人間が目で見て選んだある程度の数の訓練データさえあれば、渦巻銀河だけでなくもっと様々な形の銀河の分類が可能となる。国立天文台は、一般市民にHSCの銀河画像を実際に見てもらい、「リング銀河」や「しっぽ付き銀河」のような銀河同士の衝突・合体の兆候のある銀河を分類する市民天文学プロジェクト「GALAXY CRUISE」を進めている。
「HSCの戦略枠プログラムのデータはまさにビッグデータで、近傍から遠方まで数え切れないほどの銀河が写っています。こういったデータに市民天文学者と機械が手を組んで挑むのは、科学的にも非常に面白いアプローチです。GALAXY CRUISEでの市民天文学者による分類をもとにディープラーニングを用いると、大量の衝突・合体銀河を見つけることができるかもしれません」(GALAXY CRUISE監修担当 国立天文台・総合研究大学院大学 田中賢幸さん)。
人工知能による多様な形態の銀河分類のイメージイラスト。今後は渦巻銀河だけでなく棒渦巻銀河や衝突銀河など様々な形も分類できるようになると期待される(提供:国立天文台/HSC-SSP)
2022年から稼働開始予定の、すばる望遠鏡の新しい超広視野多天体分光装置(Prime Focus Spectrograph; PFS)では、銀河までの距離を測定する大規模探査が計画されている。「銀河までの距離がわかれば、その銀河が何億年前の宇宙にあるのかわかります。銀河の形態が時間と共にどのように変化してきたのかを調べたいです」(但木さん)。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:人工知能を活用したすばる銀河動物園プロジェクト
- MNRAS:Spin parity of spiral galaxies II: a catalogue of 80 k spiral galaxies using big data from the Subaru Hyper Suprime-Cam survey and deep learning 論文
〈関連リンク〉
- すばる望遠鏡
- SDSS
- 国立天文台 市民天文学プロジェクト「GALAXY CRUISE」
- 星ナビ.com:
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