オーロラの「またたき」を制御するのは宇宙の「さえずり」

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ジオスペース探査衛星「あらせ」と地上からの光学観測を組み合わせることによって、脈動オーロラの「またたき」には高エネルギー電子のコーラス波動による「さえずり」が影響していることが初めて示された。

【2020年3月12日 宇宙科学研究所

私たちを楽しませてくれる美しいオーロラは、地球周辺の「ジオスペース」と呼ばれる宇宙空間にある高エネルギー電子が地球の大気にぶつかって生じる発光現象だ。オーロラは形が明瞭な「ディスクリートオーロラ」と形があいまいな「ディフューズオーロラ」に分けられ、このうち後者は、ジオスペースに存在する電子が磁力線に沿ってらせん状に運動することによって生じる「コーラス波動」に揺さぶられた電子が地球へと注ぎこまれることで発生すると考えられている。

このディフューズオーロラを高速オーロラカメラで撮影すると、ほとんどの場合、数秒から数十秒の間隔で明るくなったり暗くなったりする「脈動オーロラ」がとらえられる。脈動オーロラの明るさの変化には、数秒から数十秒のビートで明滅する「主脈動」と、1秒間に3回くらいの「内部変調(またたき)」が重なり合う「階層的周期構造」が存在する。

JAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」と地上からの光学観測を組み合わせた研究によって、脈動オーロラが脈を打つペースはコーラス波動が強くなったり弱くなったりするリズムによって決められていることがこれまでに明らかになっていた(参照:「衛星「あらせ」、明滅するオーロラの起源を解明」)。さらに、脈動オーロラの一種である「フラッシュオーロラ」という瞬間的に発光するオーロラがコーラス波動によって作り出されていることも、「あらせ」と地上観測の同時観測データによって明らかにされている。

電気通信大学の細川敬祐さんたちの研究グループは、秒以下の「またたき」も含めた脈動オーロラの明るさの変化がコーラス波動の強度変化によって完全に制御されていることを予想し、「あらせ」と地上からの高速オーロラカメラによる撮像を組み合わせた観測研究によって、脈動オーロラの「またたき」とコーラス波動の「さえずり」の間の対応関係を調べた。

「あらせ」と地上観測による脈動オーロラの観測
(左)コーラス波動によってジオスペースの電子が叩き落とされ、磁力線に沿って地球大気へ降下し、オーロラを光らせる様子。(右)北欧とアラスカに設置された高速オーロラカメラによる観測の模式図(提供:プレスリリースより、以下同)

2017年3月29日夜、フィンランドの上空に脈動オーロラが現れた時間帯に、「あらせ」はジオスペースでコーラス波動の周期的な変化を観測した。この脈動オーロラとコーラス波動の時間変動を直接比較すると、主脈動と同じタイミングでコーラス波動の強度が高まっていた。「コーラスバースト」と呼ばれるコーラス波動の強さの変化が、脈動オーロラの主脈動のビートを決めていることを示す観測結果である。

この例の中から主脈動とコーラスバーストを1つずつ取り出して拡大すると、どちらにも予想していた脈動オーロラの「またたき」やコーラス波動の「さえずり」の兆候が見られない。つまり、この脈動オーロラは秒以下のまたたきを持たないものだったことがわかる。これは、コーラス波動に秒以下の変化がない場合は脈動オーロラにも秒以下のまたたきが存在しないこと、脈動オーロラのまたたきの有無はコーラス波動の性質によって決められていることを示している。

2017年3月29日にフィンランドで観測された脈動オーロラ
2017年3月29日にフィンランドで観測された脈動オーロラ。撮像された脈動オーロラの明るさの変化(中段・白黒パネル)と「あらせ」が観測したコーラスバーストの時間変化(中段・カラーパネル)。脈動オーロラのメインの周期である「主脈動」と同じタイミングで、コーラス波動の強度が高く(赤く)なっている。また、主脈動とコーラスバーストを1つずつ取り出しズームインすると(下段)、コーラス波動に「さえずり」がない場合、脈動オーロラにも秒以下の「またたき」が存在しないことがわかる

翌30日にはアラスカで「あらせ」と高速オーロラカメラによる脈動オーロラが同時観測され、前日のオーロラ同様、主脈動とコーラス波動の時間変化の間に1対1の対応関係が確認された。

しかし、脈動オーロラとコーラス波動を1つずつ取り出して拡大すると、前日の例とは対照的にどちらにも細かい変化が存在していた。撮像されたオーロラには秒以下の繰り返し周期で明るさが変わる「またたき」があり、コーラス波動の強度の増大中には細かいスジが埋め込まれている。

これらの秒以下の変動が1対1で対応していることから、脈動オーロラの「またたき」は、「コーラスエレメント」と呼ばれるコーラス波動が内包する微細な構造によって完全にコントロールされていることがわかった。脈動オーロラのまたたきがコーラスエレメントの繰り返し周期によって形づくられていることが示されたのは初めてである。

2017年3月30日にアラスカで観測された脈動オーロラ
2017年3月30日にアラスカで観測された脈動オーロラ。前日の観測事例と同様に、主脈動とコーラスバーストの時間変化の間には良い対応関係があることがわかる(中段)。また、それぞれの「一発」をズームインすると(下段)、脈動オーロラには「またたき」が、コーラス波動には「さえずり」が存在していることがわかる

これらの「またたかない」オーロラと「またたく」オーロラの2例を比較することにより、脈動オーロラに見られる秒以下の「ビート」の有無は、コーラス波動の「さえずり」の有無によって決まっている(「さえずり」があれば「またたき」、なければ「またたかない」)ことが明らかとなった。様々なバリエーションを持つオーロラの形態が宇宙空間の電磁波の変動によって制御されていることを強く示す結果である。

「さえずり」の有無によるオーロラの「またたき」の違い
コーラス波動に「さえずり」がない場合(左図)には、大気へ落ちている電子の量にも秒以下の時間変化がなく、脈動オーロラに「またたき」がない。コーラス波動にエレメントが見られる場合(右図)は、大気へ降下する電子の量に秒以下の変動が生じ、脈動オーロラのまたたきを作り出している

この関係を用いると、地上からのオーロラ観測によって宇宙空間のコーラス波動の変化を推測することができる。観測衛星の数が制限されているため宇宙空間での電磁波観測点は極めて少なく、観測によってコーラス波動の分布を直接知ることは難しいが、今回の成果を適用すれば、地上からのオーロラ観測によって宇宙空間のコーラス波動の二次元分布を推測することが可能になる。

コーラス波動は人工衛星の障害の原因となる高エネルギーの電子を生み出したり、オゾン層を部分的に破壊する可能性があることがわかっている。私たちの社会生活にも密接に関わるこうした問題に対して、脈動オーロラの観測からコーラス波動やジオスペースの理解がさらに深まることが期待される。

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