宇宙線電子加速の「はじめの一歩」のメカニズムを解明
【2020年2月19日 東京大学】
地球には超高エネルギーの荷電粒子(陽子や電子)である宇宙線が絶えず降り注いでいる。そのうち比較的低エネルギーの成分は「銀河宇宙線」と呼ばれ、天の川銀河内で起こる超新星爆発によって生じる衝撃波(超新星残骸衝撃波)で作られていると考えられている。
NASAのX線天文衛星「チャンドラ」がとらえた超新星SN 1006の残骸(提供:NASA/CXC/Middlebury College/F.Winkler)
衝撃波における宇宙線加速のメカニズムとしては「フェルミ加速」と呼ばれる標準モデルが存在している。このモデルでは、初期に光の速さと同程度の速度を持った宇宙線の「種」となる電子の加速を自然に説明できる。しかし、その「種」が一体どのように作られ、その量はどれくらいなのかという、宇宙線(とくにここでは宇宙線の電子成分)加速の「はじめの一歩」はわかっていなかった。
また、地球の前面(太陽側)には、地球と太陽風がぶつかることによって生じる「地球近傍の衝撃波」がほぼ定常的に存在しているが、この衝撃波では通常、宇宙線のような光の速さと同程度の速度を持つ電子は観測されない。これは宇宙線電子加速の「はじめの一歩」が起こっていないことを意味しており、地球近傍の衝撃波と宇宙線を加速している超新星残骸衝撃波の観測結果は矛盾しているように見えていた。
東京大学の天野孝伸さんたちの研究グループは電子加速の新理論として、これまで無視されてきた非常に短い時間スケールの衝撃波の動力学を考慮したモデルを提唱した。この理論モデルを、NASAの磁気圏観測衛星「MMS」の観測データで検証したところ、データを非常によく説明できることが実証された。
さらに、この新理論モデルを超新星残骸衝撃波に適用すると、光の速さ程度にまで電子を加速できることも示された。地球近傍の衝撃波は秒速数百kmであることに対し、超新星残骸衝撃波の速度は秒速数千kmと速く、その違いが「はじめの一歩」の有無となるという。地球近傍の衝撃波と超新星残骸衝撃波の観測結果が統一的に理解できることを、世界で初めて観測による裏付けをもって示した成果となる。
研究の概念図。人工衛星MMSで観測された地球近傍の衝撃波のデータを解析し、その結果を遠くの超新星残骸衝撃波に適用した(提供:プレスリリースより)
「はじめの一歩」のメカニズムが明らかになったことで、今後は宇宙線の「種」粒子の量、さらに宇宙線の総量を見積もる研究も可能となる。電子成分だけでなく宇宙線加速の全体像の理解が進展することが期待される。
〈参照〉
- 東京大学大学院理学系研究科・理学部:宇宙線電子加速の「はじめの一歩」
- Physical Review Letters:Observational Evidence for Stochastic Shock Drift Acceleration of Electrons at the Earth’s Bow Shock 論文
〈関連リンク〉
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