月の「スミス盆地」の火山活動に迫る

このエントリーをはてなブックマークに追加
月探査機「かぐや」により取得された月の地下の観測データから、「スミス盆地」の溶岩領域における地下構造が調べられ、約40億年前以降に溶岩噴出量が急低下したことなどが明らかにされた。

【2020年1月20日 東北大学

月は約45億年前に誕生した後、約40~38億年前の「後期重爆撃期」に巨大な天体の衝突を受け、主要な盆地が形成された。その後、月の表側の盆地内で火山活動によって溶岩の噴出が起こり、その活動は約34億年前まで活発に続いた。一方で月の裏側では、火山活動は低調だったことが知られている。

鶴岡工業高等専門学校の石山謙さん、東北大学の熊本篤志さんたちの研究チームは、これまで調査されていなかった月の表側と裏側の中間に位置する「スミス盆地(スミス海)」に注目し、日本の月周回探査機「かぐや」により取得された月地下レーダー観測データを用いて、盆地の北側の溶岩領域における溶岩の地下構造を調査した。

スミス盆地
NASAの月探査機「クレメンタイン1」のデータから作成された、月の経度90度付近の画像。中央がスミス盆地(スミス海)、左のほうにウサギ模様の耳~顔が見えている。左端あたりが月の表側の中心、右端あたりが裏側の中心にあたる(提供:NASA/JPL/USGS

その結果、深さ(平均)が130m、190m、300m、420mのところに4つの地下反射面が存在することが確認された。また、北側の溶岩は約40~30億年前の間に噴出しており、1年あたりの噴出量が約7.5×10-6km3と見積もられた。一方、南側の溶岩は約40億年前までに噴出しており、先行研究の結果を踏まえると1年あたりの噴出量は約8.4×10-4km3となる。つまり、北側の1年あたりの噴出量が南側の約100分の1に低下したことが示され、スミス盆地における溶岩の噴出が約40億年前以降に急激に低下し、火山活動が低調になったことが明らかとなった。

スミス盆地の溶岩の地下構造と溶岩の噴出量の時間発展
(左)スミス盆地の溶岩の地下構造(BはAに地下反射面の補助線を入れたもの)。(右)スミス盆地における溶岩の噴出量の時間発展。赤点(スミス盆地、今回の研究結果)と黒点(雨の盆地、先行研究)の比較から、溶岩の噴出量が減少する時期が異なることがわかる。画像クリックで表示拡大(提供:リリースページより)

この40億年前という時期は、月の表側の火山活動が低調になる時期(約34億年前)とずれている。このことから、月の表側や裏側、その中間というそれぞれの位置において、月内部の温度が異なる時間推移をしていたと考えられる。また、スミス盆地では約40~30億年前の間で急激な月内部冷却により、10億年あたり厚さが約60km増加するような変形があったことも明らかになった。

今回の研究成果は今後、月の複雑な熱進化過程や火山活動の解明に役立つことが期待される。