HSTがとらえた火星の最新画像と、火星の津波や高層雲に関する研究成果

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5月31日の地球への最接近を前に見ごろを迎えている火星を、ハッブル宇宙望遠鏡が鮮明にとらえた。また、34億年前の火星に巨大隕石が2度衝突し大津波が引き起こされた可能性を指摘する研究成果や、火星上空に突然現れる高層雲は宇宙天気の変化と関係があるかもしれないという研究成果も発表された。

【2016年5月25日 HubbleSiteCornell UniversityESA

5月31日に火星が地球と最接近する。約2年2か月ぶりとなる最接近時の距離は約7500万kmだが、そのおよそ3週間前の5月12日、地球から8000万kmの距離にあった火星を、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が撮影した。この頃の火星は地球から見ると太陽の反対方向にあり全体が照らされているので、とくに観察に適している。

火星
2016年5月12日にHSTが撮影した火星。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, the Hubble Heritage Team (STScI/AURA), J. Bell (ASU), and M. Wolff (Space Science Institute))

東側(右)の端にある大きく暗い領域は、17世紀に初めて火星の表面にある地形として確認された「大シルチス」だ。天文学者ホイヘンスが火星の自転を調べるためにこの地形を使ったことで知られる。発見当時は平原と思われていた大シルチスは、現在では年代の古い楯状火山であることがわかっており、画像中その頂上は雲で覆われている。大シルチスの南にある楕円形の巨大な地形は35億年ほど前に小惑星の衝突によってできたヘラス盆地で、その大きさは差し渡し約1770km、深さは8kmある。

オレンジ色をした画像中央に位置する地形はアラビア大陸だ。火星の北半球にあり4500kmにわたって広がっている。クレーターが密集しており、深く浸食していることから、火星上でもっとも古い地形と考えられている。アラビア大陸の南、赤道に沿って東西に走る暗い地形はサバ人の湾と子午線の湾で、暗い岩盤と古い溶岩流などが砕けてできた細かい砂が堆積している。

南極冠の部分には雲が広がって見えている。反対の北極冠が比較的小さく縮小しているのは、北半球では夏の終わりを迎えているからだ。そのほかにも、北半球の中緯度地帯に1600km以上にわたり伸びたうっすらとした雲や、西側(左)の縁に沿って伸びるもやと雲も見えている。


火星の北側にある複数の平原は、はるか昔に海岸だったような地形をしている。この地形は、約34億年前に起こった2度の巨大な隕石の衝突で発生した巨大な津波によって、火星上に残されたものだという研究成果が発表された。

マリネリス峡谷
津波によって海岸線が変化したと考えられるマリネリス峡谷(提供:NASA/JPL-Caltech)

2度の衝突は数百万年の間隔で起こったとみられている。2回目の津波は地表に押し寄せ、先の丸い暗い影のような地形を火星の表面に作り出し、水が海に戻る前に完全に凍ってしまった。元の海岸線は失われ、より後退した場所に現在見られる海岸線のようなものができたらしい。

暗い影のような地形
津波の跡と思われる凍った暗い影のような地形(提供:Alexis Rodriguez)

塩は水を液体に保つのを助ける働きがあることから、冷たく塩分のある海水は極限の環境でも生命を保護したかもしれない。火星にかつて生物が存在していたなら、この暗い影のような領域は生命の痕跡を探すのに適した候補地の一つとと言えそうである。


火星では、謎めいた高層雲が突然現れる様子がこれまでに何度か観測されている。この現象が宇宙天気の変化と関係している可能性を示唆する研究成果が発表された。

高度250kmに達する特異な雲のようなものが初めて見つかったのは2012年のことだ。アマチュア天文家によってとらえられた雲のようなものは10時間ほどかけて1000×500kmにまで広がり、さらに10日間ほど見えていた。この現象が謎めいているのは、凍った二酸化炭素と水を成分として大気中で生じる典型的な雲の高度より、はるかに高いところで発生していることにある。

火星の上空250kmに現れた高層雲
2012年3月に火星の上空250kmに現れた、謎めいた高層雲(提供:W. Jaeschke)

謎の高層雲
謎の高層雲。(下4枚)高層雲部分の拡大(提供:W. Jaeschke and D. Parker)

ヨーロッパ宇宙機関の火星探査衛星「マーズエクスプレス」が当時取得していたプラズマと太陽風に関するデータを調べたところ、高層雲が発生した場所と時刻に、大規模な太陽からのコロナ質量放出(CME)が衝突していたことが明らかになった。1997年5月にはHSTが似たような高層雲を観測しており、このときには同時にCMEが地球に到達したという記録も残っている。

高層雲の発生原因として、高速で移動するCMEが電離圏内で著しい乱れを引き起こし、高高度に存在する塵と粒子が電離圏内のプラズマと磁場によって押し上げられ、電気を帯びることによりさらに高度が高くなる、というものが考えられている。

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