「プラズマの虫眼鏡」でパルサーを超拡大観測

このエントリーをはてなブックマークに追加
6500光年彼方に位置するパルサーと褐色矮星の連星系の電波観測で、パルサーの表面にある2個の電波源を見分けることに成功した。褐色矮星から流れ出す電離ガスが天然の「虫眼鏡」として働くことで得られたユニークな観測成果だ。

【2018年5月28日 トロント大学

や座の方向約6500光年の距離にあるパルサー「PSR B1957+20」は、毎秒600回以上も高速自転する中性子星で、自転に伴って表面の「ホットスポット」から電波のビームが放たれている。このパルサーは太陽の3分の1ほどの大きさを持つ褐色矮星との連星になっている。パルサーと褐色矮星の距離はわずか約200万km(地球と月の距離の5倍ほど)しか離れておらず、およそ9時間の周期で互いの周りを公転している。褐色矮星は潮汐力によっていつも同じ面をパルサーに向けているため、パルサーに近い側はパルサーからの強い放射によって、太陽の表面とほぼ同じ摂氏6000度もの高温になっていると考えられている。

このように、パルサーからの強い放射と恒星風にさらされているため、この褐色矮星からはガスが吹き飛ばされ、彗星の尾のように褐色矮星を取り囲んでいる。このようなタイプの連星パルサーは「ブラックウィドウ・パルサー」と呼ばれている。クロゴケグモ(black widow spider)のメスがオスを食料にするように、パルサーが褐色矮星のガスを徐々に失わせて、条件が揃えば最終的には褐色矮星を消し去ってしまうと考えられているためだ。

カナダ・トロント大学のRobert Mainさんたちの研究チームは、米自治領プエルトリコのアレシボ天文台にある口径305m電波望遠鏡を使い、このPSR B1957+20から届く電波パルスの精密観測を行った。その結果、互いに20kmほど離れた2か所の明るいホットスポットがパルサーの表面に存在することが明らかになった。これは、冥王星の表面にいるノミを地球から望遠鏡で見分けるのと同程度の分解能の観測を間接的に行えたことに相当する。

このような観測ができたのは、このパルサーが褐色矮星と連星になっているという特徴に加え、地球から見てパルサーが褐色矮星に隠される「食」が定期的に起こる幸運な位置関係になっているためだ。この連星系では、食の前後に褐色矮星を取り巻く電離ガス(プラズマ)を透かしてパルサーからの電波を観測できる。電波がプラズマの中を通るとその進路が曲げられるため、ちょうど光がレンズによって曲げられるのと同じように、地球に届くパルサーの電波も「集光」されてより明るく観測されるのだ。

「褐色矮星から流れ出している電離ガスがパルサーの前に置かれた『虫眼鏡』のような役割を果たしています。この天然の拡大鏡を通してパルサーを観測することで、離れた2つのホットスポットを定期的に見ることができるのです」(Mainさん)。

パルサー「PSR B1957+20」の想像図
褐色矮星を覆っているガスを通して見える、背景のパルサー「PSR B1957+20」の想像図(提供:Dr. Mark A. Garlick; Dunlap Institute for Astronomy & Astrophysics, University of Toronto)

Mainさんたちによる観測結果は、高速電波バースト(Fast Radio Bursts; FRB)として知られる謎の現象の本質に迫る手がかりになるかもしれない。

「これまでにFRBで観測されている様々な特徴は、プラズマによるレンズ効果で電波が増幅されていると考えれば説明がつきます。私たちが観測した増幅パルスの特徴は、繰り返しバーストが発生している『FRB 121102』のバーストと非常によく似ています。つまり、FRB 121102も母銀河のプラズマによるレンズ効果を受けているのかもしれません」(Mainさん)。