強磁場が荒れ狂う高速電波バーストの源

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高速電波バーストと呼ばれる起源不明の現象について、世界最大級の電波望遠鏡で観測が行われ、バースト源はきわめて磁場の強い極限環境にあることが明らかとなった。

【2018年1月15日 オランダ電波天文学研究所

高速電波バースト(Fast Radio Bursts; FRBs)は最近発見された、天の川銀河のはるか彼方からやってくる電波信号だ。継続時間はわずか数ミリ秒間で、電波源の正体はいまだにわかっていない。オランダ電波天文学研究所(ASTRON)の研究者を中心とした国際研究チームは、FRB 121102と呼ばれる高速電波バースト源から放射された電波をプエルトリコのアレシボ天文台と米・グリーンバンク望遠鏡で観測し、この電波が「偏波」と呼ばれる性質を持っていることを明らかにした。さらに、この偏波の振る舞いを調べることで、謎に満ちたこの電波源を取り巻く環境についての手がかりを得た。

アレシボ天文台と高速電波バーストのイラスト
アレシボ天文台と高速電波バーストのイラスト(提供:Danielle Futselaar / Brian P. Irwin / Dennis van de Water / Shutterstock.com)

通常の電磁波には様々な振動方向の波が混ざっているが、電磁波が物体を通り抜けたり物体の表面で反射したりすると特定の振動方向だけを持つ波になることがあり、これを偏光(電波の場合は偏波)と呼ぶ。偏波した電波が磁場の中を通過すると、「ファラデー回転」と呼ばれる効果によって偏波の方向がねじれる。磁場の強さが大きいほどねじれの量も大きくなるため、偏波のねじれ量がわかれば電波が通ってきた磁場の様子もわかる。

高速電波バーストは一度限りの現象だが、唯一の例外としてFRB 121102というバースト源では繰り返し電波バーストが発生することが知られている。そこで研究チームでは、これまでに観測したことがない高周波の領域で、この天体から放出される電波の偏波観測を行った。その結果、FRB 121102の偏波のねじれ量は過去に観測された電波源と比べて最大の部類に入るほど大きなものであることがわかった。研究チームでは、この電波は濃いプラズマ(高温の電離ガス)の中にある極めて強い磁場を通り抜けてきたものであると結論付けている。

天の川銀河の中でFRB 121102と同じくらい大きくねじれた偏波を放射しているのは銀河中心だけだ。銀河中心には大質量ブラックホールがあり、周囲には非常に磁場の強い領域があると考えられている。したがってFRB 121102も同じようなブラックホールのそばにあるのかもしれない。「ただし、この電波バーストのねじれは、強力な磁場を持つ星雲や超新星残骸の中に電波源があるために生じるという説明も可能です」(オランダ・アムステルダム大学/ASTRON Daniele Michilliさん)。

「観測された偏波の性質や形が、天の川銀河にある若い中性子星から放出される電波に似ていることもわかりました。この結果は、電波バーストが中性子星から発生するというモデルを支持するものです」(アレシボ天文台 Andrew Seymourさん)。

1年前、研究チームはFRB 121102の位置をぎょしゃ座の方向30億光年の距離にある矮小銀河の星形成領域の中だと特定した。これほど遠い距離からの電波バーストが地球で観測されるということは、バーストのエネルギーも巨大だということになり、その大きさは太陽が1日に放出するエネルギーを1ミリ秒間に放出するのと同程度になる。FRB 121102は繰り返しバーストする唯一のFRBであるため、反復バーストを起こさない他のFRBとは正体が異なるのではないかという疑問も浮かんでくる。「繰り返しバーストを起こすという特徴と、今回観測された非常に大きなファラデー回転との間に何か関係があるのかという点に興味を持っています」(Michilliさん)。

「この天体の電波バーストが時間とともにどのように変化していくか、監視を続けています。今後の観測によって、電波源となっている中性子星が大質量ブラックホールのそばにあるのか、あるいは強い磁場を持つ星雲の中にあるのかを見極めたいと考えています」(アムステルダム大学/ASTRON Jason Hesselsさん)。

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