2つの巨大系外惑星を発見、相互逆行惑星系の可能性
【2017年3月14日 国立天文台 岡山天体物理観測所】
東京工業大学の佐藤文衛さんたちの研究チームは、国立天文台や久留米大学、中国、オーストラリアの天文台などと共同で系外惑星探索プロジェクトを進めている。そのなかで、3つの天体望遠鏡で約7年半にわたって行われた観測から、おおいぬ座の巨星「HD 47366」に2つの系外惑星が存在することを突き止めた。
HD 47366はおおいぬ座の方向260光年の距離にある実視等級6.1等のK1型巨星で、質量は太陽の約1.8倍、半径は太陽の約7倍(提供:国立天文台)
発見された2つの巨大惑星はいずれも木星の2倍弱の質量をもち、それぞれ公転周期約363日と約685日で中心星の周りを回っている。公転周期の比は1.88で、一般的な複数巨大惑星系に比べて惑星間の間隔が狭いのが特徴だ。このように惑星間の間隔が狭いと、お互いの重力によって軌道が短期間で乱され、安定した軌道を保ちにくくなる。HD 47366系の場合、惑星間の相互重力を考慮して軌道進化を計算したところ、観測データを最もよく再現する軌道は不安定であることがわかった。
しかし、現に惑星系が発見されたということは、安定な軌道が何らかの方法で実現しているということだ。たとえば、2惑星が規則的・周期的に重力を及ぼし合うことによって公転周期が簡単な整数比(今回の場合は2対1)になる「平均運動共鳴」が起こると、安定な軌道配置が存在する。しかし、このとき予想される中心星の動きは観測データと大きく異なっていた。また、両惑星がほぼ円軌道で周回していれば安定な軌道配置が存在するが、これも観測結果からやや外れている。
上記以外に考えられる可能性は、2つの惑星がお互いに逆向きに公転(相互逆行)しているというものだ。今回の観測データでは中心星の視線方向の動き(地球に近づくか遠ざかるか)しかわからず、惑星がどちら向きに公転しているかは10年足らずの観測ではほとんど区別できない。そこで、相互逆行を仮定して軌道進化を計算すると、軌道は100万年以上安定であることがわかった。惑星が相互に逆行して公転していると、軌道が接近していても短時間ですれ違うため順行(同じ方向の公転)に比べて軌道が安定になりやすいのだ。
理論曲線に相当する2惑星の軌道の形(赤い実線)。左が順行(不安定)、右が相互逆行(安定)の場合(外側の惑星の軌道が左右反転した形になっている)。+印は中心星の位置、破線は比較のため示した太陽系の地球と火星の軌道
これまでに相互逆行が確認された惑星系は存在しない。HD 47366系が本当に相互逆行惑星系かどうか、研究グループはさらに長期間の観測を続けることによって明らかにしたいと考えている。
〈参照〉
- 国立天文台 岡山天体物理観測所: 巨星を巡る新たな複数巨大惑星系の発見〜相互逆行惑星系か?〜 —日中豪協力による系外惑星探索の最新成果—
- The Astrophysical Journal: A PAIR OF GIANT PLANETS AROUND THE EVOLVED INTERMEDIATE-MASS STAR HD 47366: MULTIPLE CIRCULAR ORBITS OR A MUTUALLY RETROGRADE CONFIGURATION 論文
〈関連リンク〉
- 岡山天体物理観測所: http://www.oao.nao.ac.jp/
- 中国興隆観測所2.16m望遠鏡: http://www.xinglong-naoc.org/html/en/gcyq/216/detail-15.html
- アングロオーストラリアン望遠鏡: https://www.aao.gov.au/about-us/anglo-australian-telescope
- The Extrasolar Planets Encyclopaedia: http://exoplanet.eu/
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