地球環境にさらされたリュウグウ粒子はわずか数週間で変質する

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リュウグウ試料を大気にさらす実験が行われ、試料中の磁硫鉄鉱がわずか数週間で変質し、周囲の鉱物にも数か月で影響が広がることがわかった。

【2026年6月18日 広島大学

サンプルリターンミッションで持ち帰られる地球外の試料は、太陽系初期に起こった物質の進化の様子や、水・揮発性成分・有機物などの起源を直接調べることができる、きわめて貴重な物質だ。とくに、2020年に「はやぶさ2」が地球に持ち帰った炭素質小惑星「リュウグウ」の試料には含水鉱物や有機物が豊富に含まれていて、太陽系の物質の進化を理解する鍵になると考えられている。

一方、地球環境には水や酸素が豊富に存在するため、これらの試料は帰還後に保管・輸送・分析される間に変質してしまう可能性がある。しかし、どの鉱物が最初に変質し、その影響が周囲にどう広がるか、変質の速度がどのくらいなのかは明らかになっていなかった。

隕石の研究でも、地球外物質が地球環境の中で変質してしまう問題は大きな課題となっている。たとえば、南極で回収され、キュレーション施設で保管されている炭素質コンドライト隕石で、隕石中に含まれる「磁硫鉄鉱」が酸化されて隕石の表面に白い風化生成物が生じることがある。

炭素質コンドライト隕石の白色生成物
磁硫鉄鉱を含む炭素質コンドライト隕石の表面に見られる、地球風化による白色生成物(赤色の矢印)(提供:国立極地研究所)

現在、リュウグウ試料はJAXAの「地球外試料キュレーションセンター」で保管されている。保管や輸送は真空下で行われ、観察や操作でグローブボックスを使う必要がある場合のみ、大気圧の高純度窒素ガスを満たした環境下で作業が実施される。

今回、広島大学の宮原正明さんたちの研究チームは、リュウグウ粒子を載せたプレートを温度20~23℃、相対湿度30~40%の大気にさらす実験を行った。この実験では、数週間から数か月にわたって試料の様子が追跡され、走査電子顕微鏡や透過電子顕微鏡、放射光X線吸収分光法で表面や内部の変化が詳しく調べられた。

実験の結果、リュウグウ粒子に含まれる磁硫鉄鉱がまず表面から酸化し、鉄と酸素に富むアモルファスな(=規則的な結晶構造を持たない)変質層を形成するという形で、数週間のうちに磁硫鉄鉱の表面変質が始まることがわかった。

大気曝露前後の磁硫鉄鉱の電子顕微鏡写真
大気にさらされる前(左)と後(右)の磁硫鉄鉱の電子顕微鏡写真。赤色の矢印の位置に、磁硫鉄鉱の酸化でできた鉄と酸素に富む変質物がある。(提供:広島大学リリース)

磁硫鉄鉱が酸化されると、酸性または酸化的な環境が試料のあちこちに生じる。これによって、酸化的になった部分の周囲にあるフィロケイ酸塩が部分的にアモルファス化し、有機物にもナノスケールのバブルや炭素・酸素に富む沈殿層が形成された。磁硫鉄鉱の酸化が出発点となって、数か月の間に周りの物質にも連鎖的に変質が進むのだ。

磁硫鉄鉱にできた変質層の厚さから、初期段階の変質速度は約0.1nm/日と見積もられた。これは、地球帰還後の比較的短い時間スケールでも、重要な鉱物学的・化学的情報が失われうることを意味している。

さらに、乾燥空気、酸素を追い出した「窒素雰囲気」、室温付近での保管など、一般的なキュレーションの条件下でも変質が進行しうることが示された。宮原さんたちによれば、商用の高純度窒素ガス(窒素99.999%)の下であっても、磁硫鉄鉱は数か月から数年のうちには検出できるほど酸化が進み、特に室温付近の条件ではナノメートルスケールの変質が日単位で進みうるという。

この結果は、帰還試料を保管する際には不活性ガスで満たすだけでなく、低温・低酸素・低湿度の条件がそろった形で管理する必要があることを改めて示している。

今回の研究から、施設で保管されている試料であっても、条件によっては変質を完全には防げない可能性があることが明らかになった。地球外試料が本来持っていた重要な科学情報を守るには、今まで以上に厳密な保管が必要かもしれない。

研究チームでは、今後さらに多くのリュウグウ粒子で同様の解析を進め、鉱物の種類や粒子の構造の違いで変質の進み方がどのように変わるかを調べるという。今回得られた知見は、NASAの探査機「オシリス・レックス」が持ち帰った小惑星ベンヌの試料や、JAXAが本年度中に打ち上げを予定している火星衛星探査計画「MMX」で持ち帰る火星の衛星フォボスの試料、将来の火星ミッションで得られる火星試料などを、適切に保管・輸送・分析する方法の確立にも役立つだろう。

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