世界初、オリオン座分子雲の進化地図
【2026年6月9日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所】
宇宙における物質進化の度合いを知るには、重水素の割合が強力な指標となる。星の卵である分子雲コアが星になる直前の、非常に低温(摂氏マイナス260度付近)で高密度な段階では、重水素が濃縮されて水素に対する割合が高くなる。一方、星が誕生すると周囲の温度が上昇し重水素分子を破壊する化学反応が進み、分子に取り込まれる重水素の割合が急に減少する。
つまり、重水素割合が高ければ、近い将来星の誕生が期待できる若い領域、低ければ古い領域と判断できる。放射性同位元素の半減期を使って岩石や化石の年代測定を行うように、重水素の割合は「宇宙の時計」としての役割を果たすというわけだ。
国立天文台 野辺山宇宙電波観測所の立松健一さん、西村淳さんをはじめとする研究チームは、野辺山45m電波望遠鏡に搭載されているマルチビーム受信機の7BEE受信機を用いてオリオン座分子雲の重水素割合を測定し、この領域の進化地図を作成した。

7BEE受信機(提供:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所)
測定の結果、北部に位置する「OMC-2領域」と「OMC-3領域」では、系統的に重水素割合が高いことが明らかになった。これらの領域では今後も活発な星形成が期待される。一方、南に位置する、大質量の赤ちゃん星が存在するオリオンKL星雲やオリオン座大星雲の中心にある星の集団トラペジウムが含まれる「オリオンKL領域」では、重水素割合が低く、若いガスが少ないらしいことがわかった。

重水素割合の測定結果をもとに作成されたオリオン座分子雲の進化地図。カラーが進化段階を示し、黄色が一番若く、濃紺が一番古い。上(北)から真ん中にかけての黄や黄緑の領域で、近い将来星が誕生するとみられる。オレンジの■はオリオンKL星雲の位置(提供:プレスリリース)
また、分子雲中のコアの重水素割合は、それぞれのコアの中でほぼ均一であり、中心部で高い傾向を示すという理論モデルの予想とは異なる結果が得られた。一方でコア同士の間では重水素割合の値は異なっており、コアの進化段階の違いを表しているとみられる。
今回の観測成果は、アルマ望遠鏡でも盛んに行われている重水素を含む分子の観測結果の解釈にも重要な視点を与えるものとなりそうだ。
〈参照〉
- 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所:世界初のオリオン座分子雲の進化地図を発表
- The Astrophysical Journal Supplement Series:Observations of DNC and DCO+ toward the ∫-shaped Filament and Starless Cores in the Orion Molecular Clouds 論文
〈関連リンク〉
- 野辺山45m電波望遠鏡
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:オリオン座 分子雲
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