爆発前にまいた物質で急増光する超新星

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通常のタイプより明るく、増光も減光も極めて速い超新星の挙動をモデルで検討した結果、爆発前に恒星がばらまいた星周物質が鍵を握っていることがわかった。

【2022年1月24日 カブリIPMU

2018年6月にヘルクレス座の銀河に出現したSN 2018cow(愛称「COW」)(*1)と同年9月にヘルクレス座の別の銀河に発見されたSN 2018gep(愛称「GEP」)は、既知のものと大きく異なる超新星だった。どちらも明るさがピークに達するのが極めて速く(COWは約1日、GEPは3日)、ピーク時の真の明るさが通常の超新星の10~100倍に達し、その後減光するのも速かったのだ。こうした天体は「FBOT(Fast Blue Optical Transient)」と呼ばれているが、なぜこのような挙動を示すのか、またその挙動がどのような星の進化・爆発によるものなのかは、これまで謎だった。

1: リリース元ではAT 2018cowと表記されていますが、本記事ではSN 2018cowとします。

COW
SN 2018cow「COW」。(左)爆発直後の2018年6月20日、極大光度で左上の銀河中心より明るくなっている。(右)7月14日、暗くなりつつあり銀河中心と同程度である(提供:Daniel Perley (Liverpool J. M. University), modified by Kavli IPMU)

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)のShing-Chi Leungさん (現:米・カリフォルニア工科大学) 、野本憲一さんは2つの国際研究チームを組織し、COWとGEPそれぞれの爆発メカニズムを調べた。

2つの超新星の光度変化に合うようなモデルを探した結果、星の周囲に放出されていた物質に爆発の衝撃波がぶつかることで明るく輝き、この星周物質が急激に膨張することですぐに減光するのだという結論が得られた。星周物質がなかった場合には、明るくなるまでにはるかに時間が掛かってしまうという。

モデルによる光度曲線の違い
衝撃波と星周物質との衝突が起こった場合の光度曲線を計算し、COW(黒い四角)とGEP(青円)の観測データと比較した図。赤(COW)と緑(GEP)の実線は、星周物質との衝突が起こった場合のモデルが示す光度曲線。破線は、星周物質がないと仮定したモデルが示す光度曲線(提供:Shing-Chi Leung / Kavli IPMU、以下同)

増光の鍵を握る星周物質は、爆発前に恒星から放出されたのだと考えられる。太陽の80倍から140倍もの質量を持つ極めて重い恒星では内部が超高温になり、光子から電子と陽電子のペアが生成されるほどに達する。電子とその反物質である陽電子はすぐに大きなエネルギーを生みながら衝突するので、電子・陽電子のペアが次々と生じることで恒星は不安定になる。その結果として、星全体が吹き飛ぶには至らないものの、多量の質量が失われて星周物質となる。残された中心部分は引き続き核融合反応を続け、最後に超新星爆発を起こす。

爆発する星と星周物質の相互作用の模式図
爆発する星と星周物質の相互作用の模式図。(左上)爆発前の大質量星が中心部での電子・陽電子ペアの形成によって大規模な脈動を起こし、表面近くの物質を放出する。それによって星周物質が形成される。(右上)星が爆発し、星周物質に衝撃波が伝わる。(左下)衝撃波のエネルギーは星周物質の表面で熱と光に変換され、非常に明るく輝く。(右下)星周物質は急速に膨張してエネルギーを失い暗くなっていく。そのため、超新星は早い段階で通常程度の明るさとなって暗くなっていく

今回の研究結果は、FBOTの明るさに星周物質が深く関わっていることを示唆するものだ。研究チームでは、大質量星でパルス状に起こる脈動の大きさの違いによって放出される星周物質の量が変わり、それがFBOTの挙動のばらつきを生み出すのではないかと提案している。星周物質の質量がCOWやGEPについて予想された量より大きければ、明るさがピークに達するまでに時間がかかる。極めて明るいが増光まで時間がかかる超高輝度超新星は、このように説明できるかもしれない。

今後Leungさんたちは星周物質と超新星の関連についての研究を進め、星周物質の発生メカニズムについても探ることを計画している。

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