金星の夜に吹く風、「あかつき」が初めてとらえた

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探査機「あかつき」の赤外線観測をもとに、金星の夜間における雲の動きが初めて明らかになった。昼とは逆に、南北両極側から赤道方向へ大気が流れているようだ。

【2021年7月28日 東京大学大学院理学系研究科・理学部

金星のサイズは地球と同程度だが、大気の特徴は大きく異なる。大気の主成分は二酸化炭素で、大気中には硫酸の雲が浮かんでいる。そして特に注目されているのが、惑星全体で西向きに吹く「スーパーローテーション(超回転)」と呼ばれる風だ。風速は最大で秒速100mにもなり、これは金星の自転速度よりもはるかに速い。

スーパーローテーションの維持には南北方向の風が関わっているという見方が強まっているが、これまでは金星大気の一面、つまり昼の側しか見ることができなかったため、全体の構造はとらえられていなかった。昼は太陽の紫外線に照らされた化学物質を追跡することで雲の動きを追えるが、夜は赤外線で雲の温度の違いを観測するしかなく、はっきりしたパターンは見えていなかった。

金星で南北方向に大気を動かすメカニズムとしては「ハドレー循環」と「熱潮汐波」の2つが挙げられる。ハドレー循環は、赤道域は太陽光がよく当たって加熱される一方、高緯度が相対的に冷えるため、赤道から南北へ温められた空気が流れることを指す。もう一方の熱潮汐波は、大気が昼に加熱され夜は冷却されることで生じる温度差が原因の流れだ。約40年前に南北方向の風が発見されたときはハドレー循環による解釈が主流だったが、近年では熱潮汐波がスーパーローテーションの維持に関わっているという研究がある。両者がどれくらいの割合で大気の流れに寄与しているかを把握するためにも、夜間の雲の動きを知る必要があった。

金星の雲層付近の大気循環のイメージ
今回明らかになった金星の雲層付近の大気循環のイメージ。惑星全体のスーパーローテーション(赤)に重なるように、昼側では極向きの流れ(水色、右)、夜側では赤道向きの流れ(黄色、左)が卓越している。今回赤外線観測で発見された夜側の赤道向きの流れが、昼側の極向きの流れを相殺している。このような昼夜の流れの違いは熱潮汐波による。昼側の画像は「あかつき」に搭載された紫外カメラUVI、夜側の画像は赤外カメラLIRが撮影(提供:東京大学リリース、金星画像はJAXA提供)

東京大学大学院理学系研究科の福谷貴一さん、東京大学大学院新領域創成科学研究科の今村剛さんたちを中心とする研究グループは、日本の金星探査機「あかつき」に搭載された赤外線カメラ「LIR」が2年間にわたって約1時間ごとに撮影したデータを分析して、金星の夜側における雲の流れをとらえた。

LIRが撮影した生データはノイズが強く、温度のムラがとらえにくい。そこで研究グループは、スーパーローテーションによる雲の移動を考慮して複数の画像をずらして重ねることで、ノイズの小さな画像を合成した。これによって細かな温度の違いをとらえ、夜間の大気の運動を可視化したのである。

LIRによる金星の赤外線画像
(左)LIRによる金星の赤外線画像。(中)赤外画像を金星の地理座標に展開して細かいパターンを強調したもの。(右)画像の平均化処理によりノイズを低減したもの(提供:Fukuya et al., 2021を改変、以下同)

金星の雲頂(高度65km付近)に注目すると、昼間は赤道から南北両極の方へと流れていることがわかっていた。これに対し、今回判明した夜間の雲の動きは、南北から赤道の方へ向かっていた。南北の動きは昼夜で相殺されているため、雲の動きに関わっているのは主に熱潮汐波だということになる。ハドレー循環で暖かい空気が極方向へ流れるのは雲より上、冷えた空気が赤道へ戻るのは雲より下なのだと考えられる。

今回の発見は金星における雲の生成についても見直しを迫るものかもしれない。これまで硫酸の雲は赤道付近で作られて南北へ運ばれると考えられていたが、夜間は雲が赤道へ流れているので逆の可能性も出てきた。

風速の分布
地方時と緯度についての風速(スーパーローテーション成分を差し引いたもの)の分布。影を付けた領域は今回初めて風速の分布が得られた夜側の部分。矢印の長さは風速に比例し、緯度について10度の長さが5m/sに相当する

熱潮汐波の南北風の水平構造
(左)熱潮汐波の南北風の水平構造(赤が北向き、青が南向き)。(右)熱潮汐波の東西風の水平構造(赤が東向き、青が西向き)

金星大気の研究は数値シミュレーションによっても進められているが、今後は夜間の雲の動きを再現することも目標となりそうだ。また、スーパーローテーションは金星だけでなく土星の衛星タイタンでも確認されているほか、太陽系外惑星でも強力な風が吹いていることを示唆する観測結果が報告されている。金星の大気について詳しく知ることは、これらの天体における大気循環を理解することにもつながるのだ。

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