最期を迎えた活動銀河核を発見

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活動銀河核の観測研究から、この天体の明るさが3000年間で1000分の1以下に暗くなったことが示された。活動銀河核が活動を止め最期を迎えているものとみられる。

【2021年6月10日 東北大学

多くの銀河の中心には、太陽質量の100万倍から100億倍に及ぶ超大質量ブラックホールが存在している。ブラックホールそのものは光を出さないが、その周りに落ち込んだガスの重力エネルギーが解放されると、ガスが明るく輝くようになり活動銀河核として観測されるので、活動銀河核を調べることによって超大質量ブラックホールの成長などを探ることができる。

活動銀河核のイラスト
活動銀河核のイラスト。超大質量ブラックホールにガスが落ちて明るく輝く様子を表現している(提供:NASA/JPL-Caltech

一方、いったん活動をやめたブラックホールの周辺は急激に輝きを失って観測不可能となってしまうため、活動銀河核の終焉の現場は長らく見つかっていなかった。

東北大学の市川幸平さんたちの研究チームは、エリダヌス座の方向に位置する電波銀河「Arp 187」について、アルマ望遠鏡や米国立電波天文台のカール・ジャンスキー超大型電波干渉計による観測で取得されたデータを解析した。すると、Arp 187のブラックホール周辺から噴出したジェットに特有の2つの構造が見られたものの、中心核に付随する電波は非常に暗くて見えなかった。

Arp 187
Arp 187。VLAがとらえた4.86GHzの電波に青、8.44GHzに緑、アルマ望遠鏡がとらえた133GHzの電波に赤を割り当てた擬似カラー画像。2つの電波構造が見えるが、中心核(画像中央部)は暗い(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)、Ichikawa et al.)

活動銀河核の様々な物理スケールの特徴量を調べると、100光年より小さい物理スケールでは活動銀河核の特徴が全く見られない。市川さんたちはこの結果について、Arp 187の活動銀河核が約3000年以内に活動をやめたことを示していると説明している。いったん活動銀河核が活動をやめると、光の供給がなくなるために小さいスケールから順々に暗くなるが、大きく広がった電離領域の光は3000光年ほど「寄り道」をしてから届くため、3000年前の活動銀河核の光がまだ観測できるというわけだ。

死につつある活動銀河核の説明図
(左)一般的な活動銀河核は電離領域と中心核の両方で明るく輝く。(右)死につつある活動銀河核では中心核が暗くなり、広がった電離領域のみが明るく輝いている(提供:Ichikawa et al.)

この電離領域の光度は太陽の約3兆倍で、活動銀河核は3000年ほど前は非常に活発だったことがわかる。一方、NASAのX線天文衛星「NuSTAR」による観測ではX線が検出されず、現在の光度は太陽の約10億倍よりも暗いことが示された。つまり、Arp 187内の活動銀河核の光度はこの3000年ほどで1000分の1以下に暗くなったことになり、活動銀河核がまさに最期を迎えつつあると考えられる。

「今回は1天体のみの発見ですが、同様の手法を用いて、死につつある活動銀河核をより多く探査することを検討しています。さらに、超大質量ブラックホール周辺の分子ガス分布を調査することで、ブラックホールの最期がどのような環境なのかを明らかにする予定です」(市川さん)。

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