「恒星としての太陽」からわかること

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4機の太陽観測衛星の膨大な観測データから、太陽面上を黒点が通過したときの明るさの変化が調べられた。太陽を点光源として扱うことで他の恒星にも適用できる手法だ。

【2020年10月15日 JAXA宇宙科学研究所

太陽の「フレア」は磁気嵐を引き起こし、地球やその周囲での人類の活動にまで影響を及ぼす。このフレアは黒点上空のコロナに蓄積された磁気エネルギーが突発的に解放される現象と考えられており、太陽に限らず恒星で起こる現象だ。近年は太陽と類似した恒星で太陽をはるかに上回る巨大フレア(スーパーフレア)が発見されていて、スーパーフレアも強力な磁場が密集した黒点が関わる現象と考えられている。

このように、太陽も遠くの恒星も、規模の違いこそあるが黒点やフレアを含めた共通の磁気活動があり、その周りを回る惑星にも影響を及ぼす。とくに恒星から放射される強力な紫外線は、系外惑星における生命の生存可能性を検討する際にも重要となる。

フレアに代表される磁気活動現象を理解するには、根源の黒点だけでなく、解放された磁気エネルギーの経路となる上空の彩層やコロナの状態も調べる必要がある。だが、遠方の恒星は点光源としてしか観測できないので、彩層やコロナを構造に分解して観測できるのは近くにある太陽だけだ。太陽で得られる詳細なデータを他の恒星にも適用したり、他の恒星のデータを太陽のデータで解釈したりする方法を確立できれば、恒星における普遍的な磁気活動現象の解明につながる。

JAXA宇宙科学研究所の鳥海森さんたちの研究チームは、JAXAの「ひので」やNASAの「SDO(Solar Dynamics Observatory)」など4機の太陽観測衛星が取得した可視光線からX線にわたるデータを解析した。過去10年以上に及ぶ膨大な観測データから、太陽面上を孤立した単独の黒点が通過した期間を選び、太陽全体から届く光の明るさが各波長帯でどのように変化するのかを調べた。つまり、太陽を点光源として扱った場合に黒点の通過がどのように検出できるのかを見ているので、ここで得られた知見は点光源である遠方の恒星についても適用できる。

様々な波長帯における太陽の明るさの変化
様々な波長帯における太陽の明るさの変化。太陽面上を黒点群(活動領域12699)が通過したときの光度曲線(実線)。背景は黒点が太陽面中心付近に到達した時刻の太陽像(提供:ISAS/NAOJ)

太陽の表面(光球)からの光に対応する可視連続光では、黒点が出現しているときには暗くなる。一方、光球で測定した磁束量は、黒点が太陽面の中心付近を通過するときに大きくなる。紫外線ではプラズマからなる太陽の大気を観測することができるが、光球のすぐ上にある彩層から届く紫外線と上層のコロナからの紫外線は黒点の通過とともに増光するのに対し、その間にある遷移層では暗くなることがわかった。

彩層とコロナが増光するのに中間の遷移層が暗くなるのは、黒点がプラズマを加熱することが原因のようだ。研究チームが様々な温度に対応するプラズマの存在量を測定した結果、黒点を取り囲む広大な領域(太陽面の約4割の面積)で、60万~80万度付近のプラズマが減少していた。これは遷移層に存在するプラズマの温度である。加熱されたプラズマは100万度を超え、コロナの温度に達していたのだ。

プラズマの存在量
プラズマの存在量(エミッションメジャー)の解析結果。遷移層温度のエミッションメジャーについて太陽面上の分布を示した画像(左図)。太陽面中心の黒点上空では遷移層温度のエミッションメジャーが増加する(黄・白)が、周囲の広い領域ではエミッションメジャーが減少している(青・赤)。太陽面全体で合計したエミッションメジャー(右図)。遷移層温度のエミッションメジャーは減少し、コロナ温度におけるエミッションメジャーは大幅に増加している(提供:ISAS/NAOJ)

さらに、彩層に感度を持つ紫外線と光球の磁束量がよい相関を示すこと、光球とコロナでは増光・減光のタイミングに差があり、その時間差はコロナループの空間的な広がりに対応することなども明らかになった。これらの結果は、空間分解が困難な遠方の恒星観測であっても、複数の波長で光度曲線を測定することで黒点の構造や磁場についての情報を得られる可能性を示すものだ。

この研究は太陽や恒星の研究のみならず、系外惑星の研究分野にも貢献すると考えられる。黒点の通過が各波長に及ぼす影響がわかれば、多波長で他の恒星を観測することで系外惑星の存在やその直径、公転軌道の推定値の不定性を小さくできる可能性がある。加えて、フレアに代表される恒星の磁気活動現象やそれに伴う恒星からの放射はその周りにある惑星の環境に影響を及ぼすため、系外惑星での生命の生存可能性を検討する上でも、今回の成果の貢献が期待される。

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