天王星や海王星内部の磁場の起源は「金属の水」
【2019年7月17日 岡山大学】
「巨大氷惑星」に分類される天王星と海王星は水を主成分とした惑星で、そこに少量の炭素と窒素を含む分子(メタンやアンモニア)が混じっていると考えられている。
ボイジャー2号が撮影した天王星(左)と海王星(右)。大きさは地球の約4倍、質量は約15倍(天王星)および約17倍(海王星)。中央は大きさの比較のために示した地球(提供:岡山大学プレスリリースより、以下同)
1980年代に天王星と海王星に相次いで到達したNASAの探査機「ボイジャー2号」によって、これらの氷惑星の内部から、地球の数十倍の強さの磁場が発生していることが明らかになった。このような強い磁場が作られるためには、氷惑星の内部に強い電流が流れ続けることが必要となる。しかし、水は電気をあまり通さない物質であり、惑星内部に強い電流が流れることには無理があるため、氷惑星の磁場の存在は長年の謎であった。
仏・エコールポリテクニークのMarco Guarguagliniさん、岡山大学惑星物質研究所の奥地拓生さんたちの研究グループは、高強度レーザー施設を用いて、巨大氷惑星の磁場の起源を明らかにする実験を行った。
今回の実験に利用された2つの大型レーザー施設。(左)エコールポリテクニークの「LULI 2000」、(右)大阪大学の「激光XII号」
実験では、惑星模擬溶液の試料として、純粋な水、炭素成分を少し含む水溶液、炭素と窒素成分を少し含む水溶液の3種類が準備された。これらの試料を容器に封入し、そこに高強度レーザーを照射するというレーザーショック圧縮の手法によって、通常は極めて実現しにくい高温高圧の状態を作り出し、約300万気圧という惑星内部の実際の圧力を再現した。
この手法によって作り出される巨大な圧力は、 1億分の1秒ほどという非常に短時間しか維持できない。そこで研究グループでは、一瞬の間に物質の性質を詳しく調べる方法を開発し、水溶液の圧力、密度、温度および反射率などの性質をまとめて計測した。
実験の結果、3種類の水溶液はいずれも、光を強く反射する状態へと一瞬のうちに変化することがわかった。これは、調べている物質が金属状態になったことを示している。また、試料の水溶液が炭素を含む場合、純粋な水と比べて光の反射率が顕著に高くなることもわかった。
炭素を含む混合液体からの光の反射率のグラフ。赤外線(1064nm)と可視光線(532nm)のいずれでも、純粋な水に比べて顕著に反射率が高い
今回の研究成果により、天王星や海王星内部にある磁場の源が「金属の水」(金属的な流体)に流れる電流であり、そこに含まれるメタンが分解してできた炭素イオンが水の性質に影響を与えていることが明らかにされた。
〈参照〉
- 岡山大学:高強度レーザーで天王星内部の“金属の水”の性質を解明
- Scientific Reports:Laser-driven shock compression of “synthetic planetary mixtures” of water, ethanol, and ammonia 論文
〈関連リンク〉
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