予想外に軽かった銀河中心ブラックホール

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矮小銀河NGC 4395の中心ブラックホールの質量がわずか約1万太陽質量と求められた。中心ブラックホールと母銀河の関係を理解する上で新たな情報をもたらすかもしれない。

【2019年6月17日 ミシガン大学ジェミニ天文台

韓国・ソウル大学校のJong-Hak Wooさんを中心とする研究チームは、りょうけん座の方向約1400万光年の距離にある矮小銀河NGC 4395の中心ブラックホールが、これまでの予想よりずっと小さい約1万太陽質量であることを突き止めた。

現在の天文学では、天の川銀河と同規模以上のすべての銀河の中心に、太陽の数百万倍から数十億倍の質量を持つ「超大質量ブラックホール」が存在すると考えられている。また、質量が大きな銀河ほど中心ブラックホールの質量も重いという比例関係があることも知られている。だが、NGC 4395のような矮小銀河の中心部にも必ず中心ブラックホールがあるのかどうかについてはまだわかっていない。

「矮小銀河にも中心ブラックホールが存在するのか、もし存在する場合、超大質量ブラックホールの場合と同じようにブラックホール質量と銀河質量に対応関係があるのか、という疑問にはいまだに答が見つかっていません。その答が得られれば、巨大ブラックホールが初期宇宙でどう作られたかというメカニズムそのものを理解することにも役立つかもしれません」(米・ミシガン大学 Elena Galloさん)。

NGC 4395のブラックホールの質量を求めるために、Wooさんたちは「反響マッピング」という手法を使った。この手法では、ブラックホールの周りにある「降着円盤」と呼ばれる構造から出る光を観測することでブラックホールの質量を決める。降着円盤はブラックホールの重力で引き寄せられた物質が高速で回転している円盤で、きわめて強い光を放射し、また光の強さが大きく変わるという性質がある。

降着円盤から出た光は、円盤からずっと離れた場所にある希薄なガス雲の領域を通り抜ける。この領域は「広輝線領域」と呼ばれている。降着円盤の光が広輝線領域のガス雲に当たると、ガス雲の原子が電離され、特有の波長の輝線スペクトルを持つ光が放出される。

降着円盤からの光が変動すると、広輝線領域から出る輝線の強さも少し遅れて同じように変動する。「光のエコー(こだま)」のようなものだ。この遅れを測定できれば、ブラックホールから広輝線領域までの距離を見積もることができる。さらに、広輝線領域から出る輝線スペクトルの幅を測定すると、この領域のガス雲がブラックホールの重力場の下で公転する速度も知ることができる。こうして、広輝線領域までの距離と広輝線領域の公転速度がわかれば、あとはニュートンの万有引力の法則から、中心ブラックホールの質量を求めることができるというわけだ。

反響マッピング観測の概念図
NGC 4395の中心ブラックホールの質量を求めた観測の概念図。降着円盤から地球に届く光の時間変動(青色のグラフ)と、広輝線領域のガス雲から放出される水素の輝線の時間変動(赤色のグラフ)の時間差を観測することで、ブラックホールから広輝線領域までの距離がわかる。これと、輝線の線幅から得られた広輝線領域の公転速度を組み合わせて、ブラックホールの質量が求まる。(提供:Adam Block/Mount Lemmon SkyCenter/University of Arizona (NGC 4395 image) / NASA/Chandra X-ray Observatory/M. Weiss (accretion disk illustration))

Wooさんたちは米・MDM天文台などで観測したデータから、降着円盤の光が広輝線領域に達するまでの時間を83±14分と計算した。また、米・ハワイのジェミニ北望遠鏡に搭載されたGMOS分光計で高精度のスペクトル観測を行い、広輝線領域の公転速度を400km/s以上と見積もった。

これらの結果から、NGC 4395の中心ブラックホールの質量が約1万太陽質量であることが導かれた。これは過去の推定値の約40分の1という軽い値だ。これはまた、反響マッピングで求められたブラックホールの質量として過去最小の値でもある。

「私たちが導いた『光の遅れ』は、これまでに銀河中心部から出る光を観測して得られたエコーの時間としては最も短いものでした。ようやく、この銀河のブラックホール質量を確定できたと考えています」(Wooさん)。

「今回の結果は私たちが詳しく知っているブラックホールの種族に新たなメンバーを加えるものとなります」(Galloさん)。

「ブラックホール・フィードバック」と呼ばれる研究分野では、銀河の中心ブラックホールが、その重力の影響圏を超えて母銀河全体の性質にも影響を与えるという現象について研究が行われている。今回の成果は、どのくらい大きなブラックホールが母銀河に影響を与えるかを理解する上でも役に立つ可能性がある。

「銀河中心よりずっと遠い場所にある星々にとっては、自分が属する銀河に中心ブラックホールがあることすら知ることができないはずですが、実際にはどういうわけか、中心ブラックホールは非常に大きなスケールにわたって母銀河に影響を与えています。小さなブラックホールを持つ矮小銀河にもこの作用が当てはまるかどうかはわかっていません。今回の観測結果によって、この関係に新たな情報がもたらされることになります」(Galloさん)。

(文:中野太郎)