電波やレーダーで観測されたウィルタネン彗星

このエントリーをはてなブックマークに追加
12月中旬に地球に最接近し明るくなったウィルタネン彗星が、アルマ望遠鏡やアレシボ天文台のレーダー観測によってとらえられ、核を取り巻くシアン化水素分子ガスの分布や核の自転の様子などが詳しく調べられた。

【2018年12月27日 アルマ望遠鏡アリゾナ大学HubbleSite

ウィルタネン彗星(46P)は約5.4年周期で太陽を公転する短周期彗星の一つだ。1948年に発見されて以来何度も太陽に近づいており、今回も12月13日に太陽に最接近、その後の16日に地球にも最接近した。地球との最接近距離は1160万kmで、地球から月までの約30倍という大接近だった。これは70年前の発見から今後200年ほどの間での最接近記録となる。

太陽と地球に接近したことでウィルタネン彗星は明るくなり、天文ファンの観察や撮影の好対象となった。また、研究者にとってもめったにない観測機会となり、様々な望遠鏡がウィルタネン彗星に向けられた。

アルマ望遠鏡は12月2日と9日に、地球から1650万kmと1360万kmの距離にあったウィルタネン彗星を観測し、「汚れた雪玉」とも形容される彗星核を取り巻くシアン化水素分子(HCN)が放つ電波をとらえた。観測画像には、核の周りにコンパクトにまとまったHCNガスと、それよりも大きく非対称に広がったHCNガスが見られる。ただし、彗星が非常に近いため、アルマ望遠鏡がとらえたのは核のごく近傍だけであり、大きく広がったガスのほとんどはアルマ望遠鏡では見ることができていない。

ウィルタネン彗星
(左)アルマ望遠鏡が観測したウィルタネン彗星のシアン化水素分子の分布、(右)アマチュア天文家が可視光線で撮影したウィルタネン彗星。アルマ望遠鏡の画像サイズは約5秒角(満月の見かけサイズの約360分の1)で、可視光線写真のおよそ1000分の1サイズに相当する(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. Cordiner, NASA/CUA; Derek Demeter, Emil Buehler Planetarium)

「彗星が太陽に近づくと、氷を含む彗星本体の温度が上がり、内部に持っていた水蒸気や様々な物質を噴き出すようになります。これが彗星の尾になります」(NASA Martin Cordinerさん)。

また、米・アリゾナ大学月惑星研究所のEllen Howellさんたちの研究チームも、プエルトリコのアレシボ天文台で12月10日から18日までウィルタネン彗星のレーダー観測を実施した。レーダー観測では、ガスと塵の雲の中に隠されている彗星核を見ることができる。さらに、ガスと塵の放出による軌道の変化を詳しく予測し、彗星の軌道を正確に決定できるようになる。しかし、レーダーで彗星を観測できる機会は少なく、過去30年間で8回目という貴重なチャンスだった。

観測の結果、彗星の核が細長くごつごつしていることや、幅が約1.4kmであることがわかった。また、彗星のコマ(核の周囲に広がっている部分)の観測から、コマに相当な量の粒子(大きさ2cm以上)の集団が含まれることや、コマが非対称で長く伸びていることもわかった。

ウィルタネン彗星の核の自転
2018年12月15日のウィルタネン彗星のレーダー画像から作成された動画(自転周期8.9時間のうちの1.4時間分)。核が反時計回りに自転していることがわかる(提供:Arecibo Observatory/NASA/NSF)

ウィルタネン彗星は遠日点(太陽から最も遠く離れる点)が木星軌道付近にある、木星族彗星の一つだが、同じ木星族彗星で活動のレベルも同程度である本田・ムルコス・パイドゥシャーコヴァー彗星(45P)やタットル・ジャコビニ・クレサーク彗星(41P)と比べると、コマに含まれる大きい粒の量が異なっている。ウィルタネン彗星のコマには大きな粒が多く含まれているが、本田・ムルコス・パイドゥシャーコヴァー彗星では大きな粒の数は少なく、タットル・ジャコビニ・クレサーク彗星では大きな粒は全く存在しない。

ウィルタネン彗星
ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が12月13日に撮影したウィルタネン彗星(距離約1150万km)。ガスの放出や氷の成分、ガスに対する太陽光の影響などを調べるためにHSTやX線天文衛星「チャンドラ」などもウィルタネン彗星を観測した(提供:NASA, ESA, and D. Bodewits (Auburn University) and J.-Y. Li (Planetary Science Institute))