南緯45度の星空案内人
第19回 「すべてが逆さまの南半球」

Writer: 米戸実氏

《米戸実プロフィール》

1964年大阪生まれ。子供の時から南半球に興味を持ち始め、ハレー彗星はニューカレドニアへ。卒業後にニュージーランドへ冒険旅行に出て、旅行と南半球にすっかりはまる。両国の旅行会社に勤務し、現在クイーンズタウンでスターウオッチングツアーを運営する傍ら、オーロラ撮影に熱中。

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先日、ニュージーランドに住む日本人の友人から何気ない質問を受けました。それは「南半球の渦は、北半球の反対ですよね?」という内容でした。どこからそのような疑問が出てきたのかは知りませんが、まさか地球の自転による影響だとは思ってなかったようです。

私もあるテレビ番組で見たことがあります。そこでは赤道近くに住む人が小さな洗面器を使って、渦巻きの実演をしていました。洗面器の底に小さな穴を開けて指で塞ぎ、そこに水を入れて赤道から北に10メートル進みます。そこで指を離して洗面器の穴から水を地面に落としながら渦の巻き方をお客さんに見せるのです。次に赤道から南に10メートル移動して同じ実験をして、渦の回転が先程と違う所を見せます。

最後は赤道上で同じ実験をし、渦を巻かない様子を見せて観客を沸かせ、お金を帽子に投げ込んでもらっていました。観客はこのパフォーマンスに盛大な拍手を送っていましたが、実演した人は、これで家族を養っているそうです。

また先日「You Tube」で『南半球』と打ち込んでみたところ、2名の日本人観光客が宿泊ホテルの洗面台にある小さなシンクで同ようの実験をし、それをわざわざ投稿していました。1人はブラジルのホテルで、もう1人はオーストラリアのホテルに泊まっていたようでした。しかし、二人共渦巻きが左回転になっていて、挙句に『南半球の渦は反時計回りでした』と結んでおられました。困った実験結果報告です。

スターウオッチングツアーでもこの渦の話をすると、中には水洗トイレを流した時の渦も反対ですよね・・・と仰るお客様も少なくありません。一体どこからこのような間違った情報が伝わるのか、不思議でなりません。

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そこで正確なお話を簡単にしておきます。まずは、南半球と北半球での渦は確かに反対です。しかし、トイレとか洗面台、浴槽、プールなどでは正確な実験結果は得られませんし、ましてや手に持った洗面器の実験などは論外です。

渦の向きは北半球で左回転となり、南半球では右回転になります。その事実結果をご覧になられたい方は、低気圧や台風の渦の向きを見て下さい。規模的には、台風のような大きな物体にならないと「コリオリの力」は作用しないと言われています。この「コリオリの力」は各自で勉強して下さい。でないと、文字数がオーバーしてしまいます(笑)。写真左側が北半球の台風で、右半分が南半球のサイクロンの写真です。渦の向きが反対ですね。

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さて次の逆さまをご紹介しましょう。それは月です。月のマークで有名な「花王」のロゴは、北半球での三日月がデザインされていますね(昔、アルバイトで花王の製品を売っていたので遠慮なく会社名を使わせてもらいます)。しかし、南半球の三日月は左右反対なので、こちらの三日月を使うわけにはいきません。北半球の三日月は、月の左側が欠けている姿で見えますが、南半球は右側が欠けています。なのにトルコの国旗はどうして右側が欠けているのでしょうね。北半球の国なのに・・・。

月の模様も当然逆さまになりますね。日本のように『月にはウサギがいて、餅をついている』とは言いません。それではニュージーランドではどのような模様が見えて、月には一体何がいるのでしょうか?

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こちらは皆既月食の際に撮影した満月ですが、月表面の黒い模様は一体何を形作っているか分かりますか。日本とは上下が逆になりますので、垂れ下がっているウサギの耳がピンと立ち、ツアーのお客様の中には『こちらの方がウサギに見えます』という方も少なくありませんが、実際に満月を見ない場合、答の第1位は、やはり「羊」でした。しかし、この模様を羊に結び付けるには、かなりのヒネリと想像力が必要でしょう。

正解は片腕のカニです。ウサギの耳が立ってカニの爪となり、ウサギの丸い尻尾を爪のない腕に見立てています。分かりますか?また当然のことですが、すべての天体も逆さまになります。オリオン座もクィーンズタウンで見るとこうなります。

少し色気を使ってフォギーなるフィルターを使ってみましたが、使っていない時と比べて画像周辺の星が点像にならない感じです。もう少し絞って撮らないといけませんね。

ご覧の通り、シリウスがオリオンの右上に位置しており、青さを増して輝いていますね。まさに和名『青星』の名の通りです。そして写真右下に写っているこいぬ座のプロキオンを含めた冬の大三角も、日本では逆三角になるのに、ニュージーランドではこのように綺麗な正三角形が正立した状態で見られます。撮影地は自宅から車で10分の所です。

では、なぜ月も天体も北半球の逆さまになるのでしょう。ツアーのお客様に問いかけても、正確な回答を頂戴することが出来ません。答えは簡単ですね。例えば北極の上に立っている方と南極に立っている方のことを想像されてみて下さい。そうお互いに相手が逆さまに立っているポジションとなるだけのことです。南極にいる方が逆立ちをしていれば、北極にいる方と同じ上下になりますけどね。

次に太陽や月の進行方向のお話です。皆様の地域では太陽は向かって右へと進むのではないですか?そう太陽は東から昇り、右に進んで南を通り、最後は西の空に沈んで行きますね。ですから家を建てる時は、日当たりの良い方角である「南向き」にたくさんの部屋を配置する設計が多いと思います。

しかし、ここは南半球。太陽は向かって左に進みます。勿論太陽は東から昇ってきますが、南ではなく北の空を進んで西の空に沈んでいきます。ですので、家は「北向き」に建てます。 昔、赤塚不二男さんの代表作で「天才バカボン」という大変面白いアニメ番組がありました。このアニメの主題歌に「西から昇ったお日様が東へ沈む〜」と歌詞があります。皆様の中に、この現象は実在し、南半球だとすべてが逆さまになるのでお日様が西から昇るのだ・・と思っている人もいるのでは?しかし残念ながら、お日様は白夜地域の特例を除いては、地球上のどこでもちゃんと東から上って来ます。

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そしてこれは皆様もご存知のことですが、北半球と南半球では季節が逆になります。私のホームページに「真夏にニュージーランドでスキー&ボード」という項目があります。先日このホームページのプロバイダを変更するまでは、「ニュージーランド スキー」という言葉で検索して頂くと、約100万件のヒットがあるのですが、その第1番目に私のページが何年間も居座っていました。スキーヤーやスノーボーダーはよくご存じですよね。そう、日本が真夏の茹だるような暑さの時、ここニュージーランドでは乾燥した雪が山の上部だけに積もり、ゲレンデを我が物顔でぶっ飛ばして滑ることができます。

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私は1988年にワーキングホリデーでニュージランドへやってきましたが、目的がはっきりしていました。それは未来の仕事のためにスキーの修練を積むためでした。しかし、イメージが無いままの滑走は毎日がほぼ無駄だったと、翌年に気付きました。やはり何でもイメージトレーニングは必要だと悟りました。皆さんも真夏にスキーはいかがですか?燃油サーチャージも大幅に下がりそうですし、今年こそクィーンズタウンに滑りにお越し下さい!

最後に街の書店や土産店などで見かける北半球と逆さまのものをご紹介しておきましょう。それは「逆さまの世界地図」です。なんとその地図を広げると、南極が地図の一番上に横たわっており、その直ぐ下にニュージーランドが見えます。

こうして世界を逆さまに見ると、皆様の世界観も変わってくるのではないでしょうか?私がニュージーランド永住の道を選んだのは、この地図を見たからではありませんが、宇宙から見れば上下左右はまったく関係ありませんし、映像でしか見たことがありませんが、我々の地球は大変美しい青い星なのです。そこに生きる我々は皆「同等」です。毎日の戦争やイザコザ、そして小さなことにクヨクヨして生きているなんて勿体無いですよ。皆さんでこの地球に生きることを楽しもうではありませんか。私はニュージーランドに来て既に21年になりますが、毎日のスローライフを楽しんでいますよ。

次回はその「スローライフ」をご紹介します。ニュージーランドはスロー過ぎる人がかなり多いですけどね・・・。

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