南緯45度の星空案内人
第9回 「南半球での星空撮影 2」

Writer: 米戸実氏

《米戸実プロフィール》

1964年大阪生まれ。子供の時から南半球に興味を持ち始め、ハレー彗星はニューカレドニアへ。卒業後にニュージーランドへ冒険旅行に出て、旅行と南半球にすっかりはまる。両国の旅行会社に勤務し、現在クイーンズタウンでスターウオッチングツアーを運営する傍ら、オーロラ撮影に熱中。

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前回(第8回)コラムの最後に、「季節によっては、みなみじゅうじ座が真っ逆さまになる下方経過もおつなものだ」と書きましたが、その下方経過は南半球の緯度の低い所では地平線に沈んでしまう場所もあります。例えば、オーストラリアでは、みなみじゅうじ座の4つの星の一部または全ての星が地平線に沈んでしまうことがあります。パースではγ星が地平線に沈みます。シドニーでもγ(ガンマ)星が2度の高さ、ブリスベンではα星しか見えません。ケアンズなどでは全て地平線の下です。本国ニュージーランド最大の都市オークランドでも5度まで下がってしまいます。

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それを考えると、ここクィーンズタウンではγ星でさえ12度高さを通過しますので、一年で一番忙しい11月頃に訪れれば落胆することはありません。おまけに空気が澄んでいるので、地平線近くの星でも大変綺麗に見えます。

さて、今月もカメラのレンズを南半球の夜空に向けてみましょう。先月は望遠鏡の極軸を合わせて、撮影の準備をする方法をお話しました。早速シャッターを開けてみましょう。しかし、追尾撮影はそんなに簡単ではありません。オートガイダーを作動させるにしても、パソコンや冷却CCDカメラなど、大量の電力、簡単な追尾撮影をするにしても、大量の乾電池が必要です。つまり、日本でも同じだと思いますが、電源の確保がもっとも大切なのです。ディープサイクルバッテリーを含む大型蓄電池は重いので、現地で買い揃えるしかないでしょう。到着空港の街、例えばクライストチャーチやオークランドなどの大きな街で購入してから撮影地に出向いて下さい。でないと、田舎町では在庫があるかどうかも分かりません。

さて、極軸を合わせ、電源を確保し、撮影に入りましょう。前にも述べた通り5月頃に来られれば、午後8時には南十字が天頂に位置しますし、そのあとは、天の川のもっとも濃いさそり座やいて座が朝までに天頂を通過します。日本では、この2つの星座は南の空を低く通過するので大気の影響をモロに受けますが、ここでは天頂に達しますので、本当に凄い写真が撮れますよ。

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また夏の大三角はアルタイルをのぞいた残りの2つが、ほとんど地平線上にあるので、日本とは違った星景写真が撮れたりします。

さあ、思う存分シャッターを開けて下さい。私のようにコンポジット(合成)をせず、しかも受光素子がCCDの一眼デジタルカメラを使っている方でも、ここは真夏でも夜間は気温が10度前後と大変低いので、何とか5分前後の長時間露光でもイケテしまいます(笑)。暖かい日は熱かぶりも見られますが・・・。

しかし、ノイズリダクションは絶対にONです。でないと、全く見られる写真にはなりません。RAPを使ってのノイズリダクションが最適だと思いますが、私は銀塩を引きずっているためか、やはり撮影はその場で勝負したいと思ってます。

それよりも、南半球の空は、エータカリーナという赤色大星雲を抱えています。その赤色を的確に捉えるためにも、赤外カット改造の一眼デジタルカメラを駆使したいものです。しかも、冷却機構がある改造カメラもあるようですから、それを駆使して素晴らしい写真の数々を早く撮ってみたいものです。残念ながらこの写真は、ノーマルの一眼デジタルカメラで撮ったものですが・・・。

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しかし、私のようにエータカリーナの餌食にはならないで下さい。もしこの星雲に魂を抜かれてしまうと、栄転の話を何度も断ってしまい、人生を自ら破滅の道へと導くことになるかもしれません。それを肝に銘じて、この星雲を撮影して下さい。まるで真紅の蘭の花が「これでもか!」と言わんばかりに花びらを広げているからです。この星雲は、みなみじゅうじ座のすぐそばにありますから、やはりニュージーランドの初秋から冬にかけて来られると天頂近くで撮影できます。早い話、3月から6月頃というわけです。

やはり、一眼デジタルカメラとしては、キャノンやニコンが今月から販売を開始する受光素子にCMOSを使ったものがベストでしょう。長時間露光にもほとんどノイズのない写真を撮ることができます。私がひいきにしているペンタックスが、もし次期モデルの受光素子にCMOSを採用してくれたらと願っています。もしCCDのままだと、他社に鞍替えしたりして・・・。

さて、今夜もスターウオッチングツアーのお客様に南半球の星空を案内してきましたが、下方経過中のみなみじゅうじ座を綺麗に見ることができました。また大小マゼラン星雲も高度を上げ、とくに小マゼラン星雲は天頂近くに位置しているために、長い間夜空を見上げているお客様の中には首が痛くなる方もいます。ということで、この時期は天頂近くの2つのマゼラン星雲を狙うのが得策です。

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前述の通り、天頂近くの方が綺麗に撮れますからね。しかし日没時間にはお気をつけ下さい。年末年始はとくに遅く、日没時間は午後9時35分になります。撮影に影響をもたらす天文薄明が終わるのは、午前12時頃になります。年末年始を避けてお越し下さい。

次回は「これからの時期、南緯45度では」と題してお話します。

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