ブラックホールに吸い込まれる直前の物質の幾何構造

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気球に搭載した検出器により、ブラックホール連星系からのX線偏光が観測され、ブラックホールに吸い込まれる直前の物質の幾何構造が明らかになった。

【2018年6月29日 広島大学

約6000光年彼方のブラックホール連星系「はくちょう座X-1」では、太陽の約15倍の質量を持つブラックホールに伴星から物質が降着している。その際、強い重力によって物質が約1000万度まで熱せられ、X線で明るく輝いている。

はくちょう座X-1
「はくちょう座X-1」の想像図(提供:NASA, ESA, Martin Kornmesser (ESA/Hubble))

ブラックホールのすぐ近くにおける降着物質は、太陽の光球とコロナのように、降着円盤とコロナを形成していると考えられている。ブラックホールに物質が吸い込まれる直前の、ブラックホール周辺100kmほどの領域については、これまでに時間変動(測光)やエネルギー(分光)の観測が行われてきた。しかし、これらの観測では、物質の幾何学的な構造がブラックホールの近傍で広がっているのか、コンパクトな状態で存在しているのかという判断が難しかった。

幾何構造を調べるには、偏光観測を行うのが有効な手段となる。そこで、スウェーデン王立工科大学のM. Chauvinさん、広島大学大学院理学研究科の高橋弘充さんをはじめとする、日本とスウェーデンのPoGO+(ポゴプラス)国際共同研究グループは、硬X線の偏光観測に特化した検出器を開発し、直径100mの気球に搭載して北極圏の上空40kmからはくちょう座X-1の硬X線放射の偏光観測を実施した。

検出器を搭載した気球打ち上げの動画(提供:Swedish Space Corporation)

その結果、2~18万電子ボルトの硬X線の帯域で世界トップクラスの感度が達成され、世界で初めて、反射や散乱によって生じるブラックホール連星系からの偏光情報が信頼性の高い精度で得られた。

観測結果から、はくちょう座X-1の硬X線の偏光は微弱であることがわかり、はくちょう座X-1では恒星からブラックホールに吸い込まれている降着物質は相対論的な効果を強く受けていないと推定される。これは、ブラックホール近傍の降着物質は広がった幾何構造をしているというモデルを強く支持する成果である。

今後は、改良された気球実験や人工衛星によるX線偏光の観測と理論研究などの両面から、ブラックホールに吸い込まれつつある物質が重力の影響をどのように受けているが明らかにされていくだろう。ブラックホールの自転速度といった特性や、時空のゆがみなどブラックホールが及ぼす相対論的効果の理解が進むと期待される。