はくちょう座X-1ブラックホールの質量は太陽の21倍

このエントリーをはてなブックマークに追加
恒星質量ブラックホール「はくちょう座X-1」までの精密な距離測定をもとに、このブラックホールの質量が従来の推定より5割ほど重い、約21太陽質量であることが判明した。

【2021年2月25日 国際電波天文学研究センター

「はくちょう座X-1」は1964年に発見されたX線天体で、地球に最も近い恒星質量ブラックホールの一つだ。青色超巨星と可視光線では見えないX線源とが約5.6日周期で回り合う連星になっている。この天体の正体をめぐって、1974年に物理学者のスティーブン・ホーキングとキップ・ソーンの間で有名な「賭け」が行われたことでも知られている(ホーキングははくちょう座X-1がブラックホールでない方に賭けたが、その後の観測でブラックホールであることがほぼ確実となり、1990年に負けを認めた)。

はくちょう座X-1
はくちょう座X-1の想像図。恒星質量ブラックホール(右)が青色超巨星(左)と連星を形成し、約5.6日周期で互いに公転している。青色超巨星からブラックホールに物質が落ち込んで、ブラックホールの周りにガス円盤(降着円盤)ができ、この円盤から強いX線が放射される。ブラックホールの両極からは光速近くに加速されたジェットが噴き出していると考えられている(提供:ICRAR、以下同)

はくちょう座X-1の質量は、ペアを作っている青色超巨星のスペクトルと連星系までの距離がわかれば、おおよそ推定できる。このうち距離を求めるには、地球の公転によって、はくちょう座X-1の見かけの位置がより遠くの天体に対して1年周期でわずかに動く「年周視差」と呼ばれる現象を使う。自分の目の前に指を立てて片目ずつ交互につぶって眺めると、背景に対して指が左右に動いて見える。指を顔から遠く離すほど、指の動きは小さくなる。年周視差の観測で距離を求める原理もこれと同じだ。

年周視差
年周視差の模式図。地球上からはくちょう座X-1の見かけの位置を観測すると、地球が公転しているために、背景にある遠くの天体に対してはくちょう座X-1の位置が観測時期ごとにわずかに変化する。この変化の量からはくちょう座X-1までの距離がわかる

これまでの推定では、はくちょう座X-1までの距離は約6000光年、ブラックホールの質量は約15太陽質量と見積もられていた。ただしこれは、はくちょう座X-1を電波で観測して得た年周視差から求めた値で、最近の位置天文衛星「ガイア」による可視光線での年周視差観測から求めた距離はこれより少し遠いという食い違いが生じていた。

そこで、豪・カーティン大学/国際電波天文学研究センター(ICRAR)のJames Miller-Jonesさんを中心とする研究チームは、米国内10か所の電波望遠鏡を連携させた電波干渉計システム「VLBA」を使い、はくちょう座X-1までの距離を改めて精密に測定した。

その結果、はくちょう座X-1までの距離は7240光年という結果になり、ここから導かれるブラックホールの質量は21.2太陽質量となった。この値が正しいとすると、はくちょう座X-1は、これまでに重力波以外の手法で検出された恒星質量ブラックホールの中で最も重いことになる。今回の結果は「ガイア」の観測から得られた距離の値ともよく合っているという。

「6日間以上かけてブラックホールの公転運動を全周にわたって観測し、2011年に同じVLBAで同じ観測をしたときのデータも使いました。これにより、はくちょう座X-1はこれまで考えていたよりも遠く、ブラックホールももっと重いことがわかりました」(Miller-Jonesさん)。

はくちょう座X-1は、もともと約60太陽質量の大質量星として誕生した星が、今から数万年前に寿命を迎えて重力崩壊を起こし、ブラックホールになったものだと考えられている。はくちょう座X-1が20太陽質量を上回るほど重いということになると、親星である大質量星の進化の理論を見直す必要が出てくるかもしれない。「恒星は表面から恒星風を放出して周りに物質を放出し、質量を失います。しかしこれほど重いブラックホールができるためには、ブラックホールの元となった大質量星が一生の間に失う質量の割合を、従来より少なめにしなければなりません」(豪・モナシュ大学 Ilya Mandelさん)。

今回の研究成果の解説動画

関連記事