世界最大級の銀河の電波写真集が描き出す、星の誕生過程
【2017年9月19日 国立天文台野辺山宇宙電波観測所】
星とガスの大集団である銀河の形は円盤型、楕円型、不規則型という大きな分類から、腕の開き具合や円盤の大小、棒状構造の有無といった詳しい分類まで様々であるが、こうした多様性の起源についてはまだよくわかっていない。その起源に迫るためには、銀河中で恒星が生まれるもとになる低温のガスを観測し、銀河のどこでどのように星が生まれるのかを調べることが必要となる。
低温の分子ガスの温度は摂氏マイナス260度ほどと非常に冷たく、可視光線では観測できないが、波長が数mm程度の電波(ミリ波)なら観測可能である。分子ガスの主要な成分である水素分子はこれほどの低温では電磁波を放射しないため、水素分子以外で存在量の多い一酸化炭素分子(12C16O)が放射する電波を観測することで、分子ガスの分布や運動を推定することができる。
しかし、一酸化炭素分子が放射する電波を観測して「電波写真」を撮るのは難しく、これまでに分子ガスの観測が行われた銀河は100個ほどしかなかったため、観測された分子ガスが個々の銀河の特徴なのか銀河に普遍的なものなのかを判別するのは困難だった。
北海道大学および筑波大学の徂徠和夫さんたちの研究グループは、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡で比較的距離が近い銀河の分子ガスの写真を撮影し、そのデータから銀河中の分子ガスの分布や運動、性質を調べて銀河中で恒星が形成される過程の解明を目指す「近傍銀河の複数輝線分子ガス撮像観測(CO Multi-line Imaging of Nearby Galaxies; COMING)」プロジェクトを実施した。
COMINGプロジェクトで撮像された銀河の電波写真の例(提供:COMINGチーム)
COMINGプロジェクトは今年3月のプロジェクト終了までに127個の銀河を観測した。13C16Oや12C18Oといった一酸化炭素の同位体分子も同時に観測することで、分子ガスの密度や温度といった性質を知るための膨大なデータが得られた。
データの分析は進行中だが、分子ガスの性質は銀河の中で決して一様ではないことや、銀河によって異なることがすでに明らかになった。また、個々の銀河の中心部、渦巻腕、棒状構造といった領域ごとでも分子ガスの性質が異なることもわかった。従来は極端な例を除けば銀河内のどこでも、あるいは異なる銀河同士でも分子ガスは同じような性質を持っていると考えられてきたが、実際はそうではないということを示す結果である。
COMINGプロジェクトによる銀河の電波写真(青白い色)と可視光線画像との比較。(左2つ)うお座のNGC 628(M74)、 (右2つ)しし座のNGC 3627(M66)。分子ガスの分布が恒星の分布と明らかに異なることがわかる(提供:COMINGチーム、SDSS)
今後さらに分析が進み、それぞれの銀河における分子ガスの量や性質に関する高精度な情報が得られれば、銀河の中で分子ガスから星が生まれる過程が明らかになると期待されている。
〈参照〉
- 国立天文台野辺山宇宙電波観測所:世界最大級の電波写真集が描き出す銀河における星の誕生過程
〈関連リンク〉
- 国立天文台野辺山宇宙電波観測所
- アストロアーツ:メシエ天体ガイド
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