アルマで直接観測、惑星系円盤誕生における問題解決の糸口

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原始惑星系円盤の観測から、ガスが円盤に降着する際に角運動量の一部を円盤の垂直方向に放出していることが明らかになった。惑星系円盤誕生の研究における大きな謎を解決するための、重要な糸口の発見である。

【2017年2月8日 アルマ望遠鏡理化学研究所国立天文台東京大学

星や惑星系は、星と星との間に漂うガスや塵からなる分子雲が自らの重力で収縮することで誕生する。生まれたばかりの原始星の周りには多くのガスが存在し、そのガスが原始星へと落下して、原始星の周りでは惑星系のもととなるガス円盤(原始惑星系円盤)が成長していく。

落下していくガス(エンベロープガス)は角運動量(回転の勢いを表す量)を持っているので、原始星の周りには回転する円盤構造が形成されるが、エンベロープガスが原始星にある程度まで近づくと原始星の重力よりも回転による遠心力が大きくなり、ガスが原始星から離れていってしまう。ガスの角運動量の一部が外部に放出されなければ、安定して回転する原始惑星系円盤を形成できないのだ。

この角運動量を放出するメカニズムの問題は「惑星系円盤誕生における角運動量問題」と呼ばれ、円盤形成の研究における最大の謎である。理論的には研究されてきたが、実際に星が誕生する現場を詳しく観測することが求められていた。

理化学研究所の坂井南美さん、東京大学の大屋瑶子さん、山本智さんたちの研究チームはアルマ望遠鏡を用いて、地球から450光年離れた、おうし座にある「L1527分子雲コア」を観測した。この分子雲コアの中心には、生まれたばかりの太陽型原始星がある。

エンベロープガス中に含まれる炭素鎖分子の一種「CCH分子」の分布を詳細に調べたところ、ガスが遠心力バリア(ガスが原始星に最大限近づける距離、原始惑星系円盤の端に相当)の手前で厚く膨れていることがわかった。外側から原始星に落下してきたガスが遠心力バリア手前で滞留・衝突して衝撃波を生じ、その衝撃によって円盤と垂直方向にガスが膨れ出ていると考えられる。

原始惑星系円盤の周りのCCH分子の分布
おうし座L1527分子雲コアにおける、原始惑星系円盤の周りのCCH分子の分布。(赤・黄)CCH分子の存在量が高い領域。等高線は星間塵の分布でピーク位置(中心)に原始星がある。南北方向に伸びた原始惑星系円盤を真横から観測している。遠心力半径と遠心力バリアの間で、円盤の垂直方向(東西方向)の厚みが変化していることがわかる(提供:Sakai et al.(理化学研究所))

また、衝撃波でガス中に放出された一酸化硫黄分子の温度を調べたところ、エンベロープガスの温度よりも160度も高温になっていた。さらに、遠心力バリア付近でのガスの回転速度は、エンベロープガスの回転速度より明らかに低くなっていた。

これらの結果は、衝突によって回転のエネルギーが消費されるとともに、円盤垂直方向への動きを得た一部のガスが角運動量を放出することで、残されたガスの角運動量が減少したことを示している。つまり、エンベロープガスが円盤に降着する際にガスが滞留・衝突し、衝撃波が発生することで、ガスが自ら角運動量の一部を円盤垂直方向に放出していることがわかったのである。

惑星系円盤形成の様子
観測で明らかになった惑星系円盤形成の様子(模式図)。中心に原始星、周りに原始惑星系円盤(断面で表面がオレンジ色、内部が紫色)が形成されている。赤線のように、外側から落下してきたガス(低温)が遠心力バリア手前で滞留・衝突し、生じた衝撃波によって円盤と垂直方向にガスが膨れ出し、高温になっている(提供:理化学研究所)

本研究では、これまでほとんど観測されなかった円盤の「垂直方向の構造」に着目してその構造を明らかにし、角運動量問題解決への糸口を発見することができた。他の円盤形成領域でも同様の現象が確認できれば、角運動量問題の全容解明へとつながり、太陽系がどのように形成されたのかという問いへの答えにも結び付くと考えられる。