すばるで初めてとらえられた、赤ちゃん星の星周構造

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すばる望遠鏡による観測で、生まれたての星の周りの複雑な構造が世界で初めて詳細にとらえられた。星と惑星が活発に成長していると考えられる現場では、赤ちゃん星の「ごはん」に相当する星周物質が太陽系の大きさよりはるかに広がって分布しており、渦や筋状構造が見られる。

【2016年2月29日 すばる望遠鏡

星の「ゆりかご」である「分子雲」はガスと塵の巨大な雲で、その中では重力のために最も密度の高い領域に周りのガスが降り積もっていき(質量降着)、星が誕生する。質量降着は100万年から1000万年ほどかけて徐々に切れ目なく続くと考えられてきたが、このような降着では、星の最終質量の1~10%しか説明できないことが研究で示されている。残りのガスや塵はどうやって集積していったのか、そもそも星や惑星はどうやって生まれるのかは、まだわかっていない。

生まれかけの星のなかに、100倍以上もの突然の増光を伴う突発的な質量降着を起こすものがある。「FU Ori(オリオン座FU星)型バースト」と呼ばれるこの現象によって質量が集積すれば先の問題が説明できることから、星の誕生に必須の現象ではないかと考えられている。バーストが観測される星が少ないのは、星の誕生にかかる時間に比べてバーストの時間がはるかに短いためだろう。

バースト発生のメカニズムを解く鍵を握るのは、生まれかけの星へ降着しつつある星周物質だ。突発的増光は、「降着円盤」と呼ばれる星周物質の円盤が摂氏1000度前後に加熱されることにより起こる。なぜバーストが起こり円盤がどうやって加熱されるのかについては複数の理論があり、数十年の間、詳細な観測による検証が試みられてきた。

台湾中央研究院のHauyu Baobab Liuさん(現・ヨーロッパ南天天文台)と同研究院の高見道弘さんの率いる国際研究チームは、すばる望遠鏡の「HiCHAO」カメラを使って4つのFU Ori型星を観測した。ガス中の塵が中心星からの光を散乱して星周物質が光るので、物質の分布を観測することができるのだが、HiCHAOはこうした観測に向いているのだ。

3つの星(FU Ori、Z CMa、V1735 Cyg)では尾のような構造が見られ、そのうち1つ(FU Ori)では渦のような運動に伴うとみられる構造が見つかった。残る1つの星(V1057 Cyg)では、中心星から複数の筋のような構造が伸びていて、中心星でのバーストが星周物質を吹き飛ばしたかのようにも見える。このような星周構造が赤ちゃん星の周りで観測されたのは世界初のことで、従来の質量降着の考え方からは予想できないものだ。

すばる望遠鏡の「HiCIAO」が映し出した赤ちゃん星たちの星周物質の分布
すばる望遠鏡の「HiCIAO」が映し出した赤ちゃん星たちの星周物質の分布。(左上)FU Ori(オリオン座FU星)、(右上)Z CMa(おおいぬ座Z星)、(左下)V1057 Cyg(はくちょう座V1057星)、(右下)V1735 Cyg(はくちょう座V1735星)(提供:Science Advances, H. B. Liu.、以下同)

さらに、コンピュータシミュレーションから、星周物質が降着して星が生まれる際に、落下運動、軌道運動、星周物質自身の重力により、コーヒーに少し注いだクリームのような複雑な構造ができることがわかった。赤ちゃん星に降り注ぐ物質が複雑な分布をしているため、星に到着する星周物質の量が大きく時間変動し、時々大きな増光が観測されるというわけだ。HiCIAOで観測できる近赤外線の散乱光のシミュレーションの結果も、このシナリオで観測された構造が説明できそうであることをうかがわせるものとなっている。

質量降着のコンピュータシミュレーションの結果
質量降着(星の成長)のコンピュータシミュレーションの結果。(左)星周物質の複雑な分布、(中央と右)星を異なる角度から眺めた場合の散乱光の分布

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