太陽系外縁天体に大気を発見、冥王星以外で初

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プロの研究者とアマチュアが連携した恒星の掩蔽観測で、冥王星以外の太陽系外縁天体で初めて、きわめて薄い大気が発見された。

【2026年5月11日 国立天文台

海王星軌道の外側には「太陽系外縁天体(TNO)」と呼ばれる小天体がたくさん存在していて、冥王星もその一つだ。TNOの表面温度はマイナス220℃と非常に低く、こうした冷たい天体に仮に大気があったとしても、その成分はメタン・窒素・一酸化炭素のようなきわめて揮発しやすい物質に限られる。しかも、こうした揮発性ガスが常に大気として存在し続けるためには、天体の重力がある程度強い必要があるため、大気を持つTNOは非常に大きなものだけだろうと考えられてきた。

これまでに大気の存在が確認されているTNOは冥王星(直径約2380km)のみだ。TNOのうち、冥王星・エリス・ハウメア・マケマケの4個は直径が1000~2000km以上と大型で「準惑星」に分類され、これら以外にも準惑星候補のTNOがいくつか知られている。だが、冥王星以外のTNOでは大気は検出されていなかった。

準惑星
準惑星の冥王星・エリス・ハウメア・マケマケと、準惑星候補天体のクワオアーの直径・形を比較した模式図(提供:国立天文台、(制作)有松亘)

国立天文台の有松亘さんたちの研究チームは、TNOによる恒星の掩蔽(恒星食)を利用してTNOについて調べる連携観測キャンペーン「TABASCO(タバスコ ; Trans-Neptunian Atmospheres and Belts Analysis through Stellar-occultation Coordinated Observations)」を行っている。TNOが背後の恒星を隠す現象を観測し、光度変化などのデータからTNOの大気や衛星、環の存在を探るというものだ。

有松さんたちはこのキャンペーンの一環として、カイパーベルトに位置するTNO「(612533) 2002 XV93」(以下、2002 XV93)が15.8等の恒星「Gaia GR2 940732910252854272」を隠す恒星食が2024年1月10日に日本を含む東アジアから東南アジアで見られる可能性を予報し、日本国内の4地点(京都大学吉田キャンパス(京都府京都市)、東京大学木曽観測所(長野県木曽郡木曽町)、福島県田村郡三春町、京都大学岡山天文台(岡山県浅口市))で観測を実施した。

観測に用いられた望遠鏡
観測に成功した3地点で使われた望遠鏡など。(左)口径20cm望遠鏡を用いた小型観測システム「SoCoSoCo PONCOTS(ソコソコポンコツ)」、(中央)東京大学木曽観測所の口径1.05mのシュミット望遠鏡に搭載された超広視野カメラ「Tomo-e Gozen(トモエゴゼン)」、(右)アマチュア観測家の細井克昌さんが運用する口径25cm望遠鏡(提供:国立天文台)

2002 XV93は観測当時、冥王星軌道のやや外側、地球から約37天文単位(約55億km)の距離にあった。天体の直径は約500kmと推定されている。

観測の結果、悪天候だった京都大学岡山天文台を除く3地点でデータを得ることに成功した。そのうち京都と長野の2地点では、同日22時12分から22時13分にかけて掩蔽による対象星の減光が最長で約18秒間とらえられ、とくに長野のデータでは掩蔽の開始・終了時に恒星の光が約1.5秒かけてなだらかに減光・回復する様子が確認された。また、福島ではTNO本体による掩蔽は発生しなかったものの、ゆるやかな減光の兆候が見つかった。

一般に恒星食では、対象星を隠す手前の天体に大気がなければ、恒星の光は天体の縁に隠された瞬間に途切れ、再び出てきた瞬間に復光する。一方、大気がある場合には手前の天体の大気層で恒星の光が屈折するため、潜入・出現時に恒星の明るさがなだらかに変化する。長野と福島で見られた光度変化は、2002 XV93に大気が存在する可能性を示唆するものと考えられた。

大気の有無と光度変化
恒星の掩蔽現象で手前の天体に大気がない場合(上)とある場合(下)の、恒星の光度変化の違い(提供:国立天文台、(制作)有松亘)

有松さんたちは、2002 XV93が冥王星と同様の温度構造を持っていると仮定した大気モデルを使って観測結果を詳しく解析した。すると、天体表面での大気圧が100~200nbar(ナノバール)程度で、メタン・窒素・一酸化炭素のいずれかを主成分とする薄い大気が天体に存在すると仮定すると、得られたデータをよく再現できることがわかった。

2002 XV93による恒星掩蔽イベント時に観測された恒星の光度変化
長野(上)と福島(下)で観測された、2002 XV93による掩蔽での恒星の光度変化。誤差棒付きの点が実際の観測値で、大気がないと仮定した場合(上段の点線)には説明不可能な、なだらかな減光・復光が影の周縁で見られた。大気があると仮定した場合の光度変化モデル(赤線)では、なだらかな変動がよく再現できている(提供:Arimatsu et al. (2026) より改変)

今回見つかった大気は、地球大気の約1000万分の1、冥王星の大気の約100分の1ときわめて薄い。だが、冥王星よりずっと小さな天体でも条件次第では大気を持ち得ることを示す結果で、これまで考えられてきたTNOの環境に見直しを迫るものと言えそうだ。

2002 XV93の大気は、継続的にガスが供給されていなければ1000年程度で失われてしまうはずだと推定される。そのため、低温の火山活動などで天体内部からガスが放出されていたり、比較的最近に小天体が衝突して一時的に大気が生じたりしたのかもしれない。

今回の同時観測キャンペーンでは、大型望遠鏡に頼らず、アマチュアとプロの垣根を超えた連携によって、太陽系の果ての希少な現象が世界に先駆けてとらえられた。有松さんたちは今後も、こうした連携観測が観測天文学の新しい柱になると期待しているという。

「太陽系外縁天体が活動性や変化のほとんどない世界だという従来の見方を覆した発見です。今後の追観測により、この大気がどのようにして生まれたかを解明するとともに、今回のような機動的な多地点での観測によって、他の太陽系外縁天体でも大気の有無を調べていきたいです」(有松さん)。

2002 XV93が恒星を隠す前後の、恒星の明るさの変化を模式的に表した動画「Conceptual video for Arimatsu et al. (2026)」(提供:国立天文台)

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