公転周期3800年、すばる望遠鏡が見つけた太陽系の「化石」

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海王星軌道の2~10倍以上も離れた軌道を公転する太陽系外縁天体「セドノイド」の新たな天体がすばる望遠鏡で発見された。太陽系黎明期の「化石」かもしれない。

【2025年7月23日 すばる望遠鏡

太陽系外縁天体(TNO)の中には、近日点距離が60天文単位(=海王星の軌道半径の2倍、約90億km)、軌道長半径が200天文単位を超えるような、きわめて遠い軌道を持つものが3個見つかっている。これらは代表天体「セドナ((90377) Sedna)」にちなんで「セドノイド(Sednoid)」とも呼ばれる。

今回、すばる望遠鏡の超広視野と高感度を生かした観測によって、4例目のセドノイド「2023 KQ14」が発見され、「アンモナイト」という愛称が付けられた。

アンモナイト
すばる望遠鏡HSCが撮影した「アンモナイト」(2023 KQ14)(提供:NAOJ/ASIAA)

「アンモナイト」は、2020年から行われているTNO探査プロジェクト「FOSSIL(Formation of the Outer Solar System: An Icy Legacy)」で見つかった。このプロジェクトは産業医科大学/千葉工業大学の吉田二美さんたちを中心として日本・台湾などが参加しているもので、すばる望遠鏡の主焦点カメラ「HSC」を使って太陽系形成時代の「化石」に当たるTNOを探すことを目指している。

「アンモナイト」は2023年3月・5月・8月の観測画像から見つかり、2024年7月に米・ハワイのカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡で追観測が行われて詳細な軌道が明らかになった。さらに、他の天文台で2005年・2014年・2021年に撮影されたアーカイブ画像からもその姿が見つかり、19年分の記録が得られたことで軌道精度が大幅に改善された。

「アンモナイト」の近日点距離は66天文単位(99億km)、軌道長半径は252天文単位(378億km)に達し、公転周期は3800年以上にもなる。発見時には近日点に近い77天文単位の距離にあり、直径は220~380kmと推定されている。

アンモナイトの想像図
「アンモナイト」(2023 KQ14)の想像図(提供:AI-generated illustration by Ying-Tung Chen (ASIAA))

これまでに見つかっていた3個のセドノイドは楕円軌道の向き(近日点引数)がランダムではなく、特定の方向に集まっているように見えていて、これが「第9惑星」の影響だという説もあった。しかし今回見つかった「アンモナイト」の楕円軌道は、これら3個とは異なる方向に伸びている。

アンモナイトとセドノイドの軌道
「アンモナイト」(赤)と、他の3つのセドノイド(白)の軌道。黄色の点は2025年7月時点での「アンモナイト」の位置。(提供:Ying-Tung Chen (ASIAA))

FOSSILチームでは、国立天文台の計算サーバ等を使って「アンモナイト」の軌道の長期進化をシミュレーションした。その結果、「アンモナイト」は少なくとも45億年間にわたって安定した軌道を維持していることや、現在は他のセドノイドと異なる軌道を持っているものの、約42億年前には4個ともよく似た軌道だったことがわかった。

現在の「アンモナイト」が他のセドノイドとは異なる軌道を持つことから、太陽系外縁部は想像以上に多様で複雑な世界のようだ。今回のシミュレーションによると、もし海王星軌道の外に「第9惑星」が存在する場合、その軌道は従来の予測よりもさらに外側にあるべきであることが示唆される。

「アンモナイトの現在の軌道が他の3つのセドノイドと一致していないことは、第9惑星仮説の可能性を低くしています。かつて太陽系に存在したものの、ある時点で太陽系外に放出された惑星が、アンモナイトと他のセドノイドの軌道が分かれる原因になったのかもしれません」(国立天文台 黄宇坤さん)。

「アンモナイトがいる領域は海王星の重力もほとんど影響しない遠方です。そこにアンモナイトのように細長い軌道で、しかも近日点距離が大きな天体が存在するということは、太古の時代に何か特異な出来事があったことを意味します。アンモナイトのような天体の軌道の変遷を明らかにすることは、太陽系史の全貌を明らかにする上できわめて重要です。現在の地球上でこうした発見を実現できるのはすばる望遠鏡だけで、これからもFOSSILチームが今回のような発見を幾つも達成し、太陽系の歴史の全体像を描くことができれば、たいへん嬉しく思います」(吉田さん)。

太陽系外縁部の小天体群「セドノイド」の軌道。(赤線)すばる望遠鏡が発見したセドノイド「2023 KQ14」の軌道、(白線)既知の3つのセドノイドの軌道。背景のグリッドは黄道面に沿って描かれており、1マスは150億km(100天文単位)に相当(提供:国立天文台)

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