史上3例目の恒星間天体、3I/アトラス彗星を発見
7月1日、米・ハワイ大学が運営する南米チリの「ATLAS(Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System;小惑星地球衝突最終警報システム)」が、いて座の方向に約18等級の新天体を発見した。世界中の望遠鏡による追観測のデータから天体の軌道を計算したところ、この新天体の離心率が異常に大きいことが判明した。
アトラス彗星(3I)の発見画像。画像クリックで表示拡大(提供:Hawaiʻi University)
離心率とは天体の軌道を特徴づけるパラメーターの一つで、0は円軌道を表し、値が大きくなるにつれて細長い楕円軌道を表す。1を超えると双曲線軌道と呼ばれ、一度太陽に近づいてからは二度と戻ってこない天体になる。とくに値が大きいと、その天体は太陽系の外からやってきた(そして太陽系の外へと去っていく)「恒星間天体」と考えられる。これまでに知られている恒星間天体は2017年に史上初めて発見された「オウムアムア」と、2019年に発見された「ボリソフ彗星」の2例だけだが、オウムアムアの離心率は1.2、ボリソフ彗星では3.4程度だった。
そのようななか、今回の新天体の離心率は6を超えていて(一時は10を超える見積もりもあった)、明らかに恒星間天体であることを示していた。さらに観測が積み重ねられ、3日付でこの天体に「3I/ATLAS」という符号が与えられた。3は3例目、Iは恒星間(Interstellar)天体であることを表し、「アトラス彗星(3I)」のように符号付きで表記することで、ATLASが発見した他の多くの天体と区別できる。
アトラス彗星(3I)(撮影:SEDNAさん)。画像クリックで天体写真ギャラリーへ
アトラス彗星(以下で3Iは略)の大きさは直径19kmほどと推測されていて、100~400mのオウムアムアや数km程度のボリソフ彗星よりもかなり大きい。現在は太陽から6.7億km、地球から約5.2億kmほど離れたところにあり、太陽に向かってきているところだ。10月末に太陽に最接近(距離2.0億km、火星軌道の少し内側)し、その後12月20日ごろに地球と最接近(2.7億km)する。
アトラス彗星の太陽系内の位置(「ステラナビゲータ」で星図作成、以下同)
「恒星間天体の検出は非常に稀で、ハワイ大学が運用するシステムがそれをとらえたことはエキサイティングです。このような恒星間天体を通じて、とても興味深い太陽系以外の惑星系の一端を垣間見ることができます」(米・ハワイ大学 John Tonryさん)。
アトラス彗星は9月中旬ごろまでは宵の空にあり、約14等まで明るくなる見込みである(CBET 5578の見積もりによる)。また、11月中旬ごろからは明け方の空に姿を見せ、12~13等で観測できそうだ。
日の出90分前の、アトラス彗星の方位と高度。括弧内は予想等級
〈参照〉
- University of Hawaiʻi:Possible interstellar visitor headed toward Sun discovered by UH telescope
- NASA Science - Planetary Defence:NASA Discovers Interstellar Comet Moving Through Solar System
- MPEC:2025-N12: 3I/ATLAS = C/2025 N1 (ATLAS)
- CBET:No. 5578: COMET C/2025 N1 (ATLAS) = 3I/ATLAS
〈関連リンク〉
- ATLAS (Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System)
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:アトラス彗星(3I)
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