爆発が近づいてきた再帰新星かんむり座T
【2023年7月5日 高橋進さん】
かんむり座Tは再帰新星と呼ばれる新星で、これまでに1787年と1946年に増光が観測されています。平常光度は約10等ですが、爆発を起こすと2等近くにまで明るく輝きます。
このような新星爆発を起こす天体の正体は近接連星で、片方の星からもう一つの星へ流入したガスが核融合反応で爆発することによって起こります。一般の近接連星では伴星から白色矮星に直接ガスが流れ込んでいきますが、「共生星」であるかんむり座Tの場合、赤色巨星から流出した水素ガスが連星系全体を取り巻きながら白色矮星の周りに降着円盤を形成し、やがて白色矮星の表面に溜まっていきます。
かんむり座Tの模式図(作成:高橋さん)
溜まった水素ガスが臨界量を超えて核融合爆発を起こすと新星として観測されます。この爆発によって白色矮星の表面に溜まった水素ガスのほとんどは吹き飛ばされてしまいますが、新たなガスが溜まって臨界量を超えると再び爆発が起こります。通常、爆発の間隔は数千年から数十万年もかかりますが、白色矮星の質量が大きい場合や質量流入が大きい場合などはこの間隔が狭くなる場合があります。かんむり座Tではおよそ80年ごとに新星爆発が起こると考えられています。
およそ80年と言いながら実際にいつ爆発が起こるか予想するのは難しいものです。そうしたなか、2015年ごろにかんむり座Tの光度が、それまでのおよそ10.2等から9.8等くらいに明るくなってきている様子が観測されました。これと同様の現象は1946年の爆発の8年前の1938年にも見られていることから、爆発が近づいてきているとの期待が高まってきました。
かんむり座Tの光度(2005~2023年)(VSOLJのデータベースから高橋さん作成)
さらに期待を高める現象がディップ(dip)と呼ばれる減光で、かんむり座Tの光度曲線が今年の3月ごろから暗くなり始めています。かんむり座Tは公転周期(227日)の半分の周期で変動をしていますが、その光度曲線が明らかに暗くなってきているのです。この減光はV等級よりB等級において顕著ですが、B等級が暗くなっているということは赤くなってきていることに対応するので、何らかの塵による現象ではないかと思われます。そして、これとほぼ同じ現象が1946年の爆発でも見られており、爆発のおよそ1年くらい前から減光が観測されているのです。
かんむり座Tの光度(2022~2023年)(VSOLJのデータベースから高橋さん作成)
このような状況をもとに、6月30日の国際天文学連合電子速報(ATel)で米・ルイジアナ州立大学のB. E. SchaeferさんとAAVSOのメンバーの皆さんから減光の開始とそれによる爆発期日の予報が発表されました。それによると新星爆発の予報日は2024.4±0.3年、つまり2024年の2月から9月の間とされています。ちょうどこの期間はかんむり座が見ごろの季節でもあります。観望会などで2等級の新星をみんなで見るチャンスです。
かんむり座T周辺の星図。数字は恒星の等級(42=4.2等)を表す(「ステラナビゲータ」で星図作成、比較星光度はAAVSOによる)
ただし、この2等級の新星が見られる期間はかなり短いと思われます。というのは、かんむり座Tは極大後はとんでもなく急速に暗くなっていく新星なのです。新星が暗くなっていく速度について、極大から3等級暗くなるのに何日かかるかという指標「t3」があります(一般にt3が100日より短い場合をfast nova、長い場合をslow novaと呼びます)。1946年の時のかんむり座Tは、t3=約7日でした。つまり3等暗くなるのに1週間ほどしかかかっておらず、2日で1等級暗くなっていったのです。これは非常に減光速度が速い新星と言えます。さらにこの時は、爆発から20日後くらいで元の10等に戻ったのですが、その後2か月ほどしてからまた8等に明るくなり、その状態が約3か月続いたという変化も見られました。
このように、かんむり座Tはピーク時の光度が明るいだけでなく、急激な減光や様々な光度変化と、非常に興味深い新星と言えます。80年ぶりの新星爆発がいよいよ近づいてきているようです。増光していく様子を含めて、この機会にぜひお楽しみください。
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