アルマ望遠鏡が探る、惑星の誕生現場における分子の分布

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アルマ望遠鏡で5つの原始惑星系円盤を観測し、それぞれの円盤における様々な分子の分布を高感度・高分解能で調べるプロジェクト「MAPS」の成果が発表された。

【2021年9月24日 ハーバード・スミソニアン天体物理学センターアルマ望遠鏡

太陽系に様々な組成の天体が存在するのは、生まれたての太陽を取り巻いていた原始惑星系円盤の化学組成や物理状態が場所によって異なっていたからだと考えられる。そこで、惑星が誕生する過程を研究する上では、実際の原始惑星系円盤を観測して物質の分布を調べることが重要だ。

米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)のKarin I. Öbergさんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡による大規模観測プロジェクト「Molecules with ALMA at Planet-forming Scales(アルマ望遠鏡による惑星形成スケールでの分子研究:MAPS)」を実施した。これは5つの若い星を囲む原始惑星系円盤をアルマ望遠鏡で観測し、その中で約20種類の分子がどのように分布しているかを調べるというものだ。その成果は20本の論文として発表されている。

原始惑星系円盤の想像図と様々な分子の分布のイメージイラスト
若い星を取り巻く原始惑星系円盤の想像図。この円盤内でガスと塵が集積して惑星が形成される。MAPSでは、この円盤内における様々な分子の分布を明らかにした(提供:M.Weiss/Center for Astrophysics | Harvard & Smithsonian)

原始惑星系円盤内の分子の分布を調べた研究は過去にもあるが、MAPSは観測の解像度や感度の高さ、そして対象とした分子の数の多さのいずれにおいても、これまでにない水準にある。

CfAのCharles Lawさんが中心となってまとめた論文では、窒素を含む有機化合物の一種で生命の起源にも関わるニトリル類など18種の分子を調べた。「円盤内で起こっている化学反応を理解するのは、どれか一つの円盤に絞ったとしても、予想以上に難しそうです。一つ一つの円盤には化学物質が形作る固有の構造があり、お互いにずいぶん異なります。これらの円盤の中で形成される惑星はだいぶ異なる化学的環境に置かれることでしょう」(Lawさん)。

一方、東京大学/国立天文台のGianni Cataldiさんを中心とした研究チームは、重水素を含む分子に注目した。通常の水素原子(H)に対して中性子が1つ多い重水素(D)が存在する割合は、太陽系内ではわずか10万分の1程度だと推定される。これに対して、地球の海水では重水素を含む水分子(HDO)が通常の水(H2O)の約1万分の1と、1桁多い割合で含まれている。このように重水素の割合が本来よりも高くなる「重水素濃縮」は、彗星などに含まれる水以外の分子でも観測されていて、太陽系天体の起源を探る鍵と考えられる。

Cataldiさんたちがそれぞれの原始惑星系円盤内での重水素存在比を調べたところ、一つの円盤内でも場所によって100倍ほど異なり、特に中心星に近いほど重水素の割合が少なくなることがわかった。「重水素濃縮については、極低温領域で活発な化学反応と比較的温かい領域でも有効な2つの化学反応があると推定されていますが、今回の観測で、その両方が円盤内で重要な役割を果たしていることがわかりました」(Cataldiさん)。

AS 209とHD 163296の周囲の原始惑星系円盤
AS 209(へびつかい座)とHD 163296(いて座)の周囲の原始惑星系円盤。円盤内の分布が分子によって異なることがわかる(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Cataldi et al. / Aikawa et al.)

東京大学の相川祐理さんたちの研究では、正の電荷を持つイオン分子HCO+の割合が原始惑星系円盤の半径100天文単位(約150億km)で少なくなることを明らかにした。中心星の表面で生じたX線が円盤上空のガスをイオン化させている一方、100天文単位より内側ではガスの密度が高いためにイオン化される分子が相対的に少ないのだと考えられる。イオン化した分子が多ければ、磁場の影響で円盤からガスが流出したり、円盤の回転が遅くなることで中心星にガスが落下しやすくなるなど、円盤内の惑星の成長にも大きな影響を及ぼすことから、さらなる研究が期待されている。

MAPSの成果は、円盤内の化学物質を調べるだけにとどまらない。CfAのRichard Teagueさんたちの研究チームはMAPSのデータを用いて、円盤内で生まれつつある惑星の姿をとらえようと試みた。原始惑星系円盤の中で惑星が成長していても、円盤そのものが晴れ上がるまでは惑星の姿をとらえるのは難しい。しかし、水面のさざ波から水中を泳ぐ魚の存在をとらえられるように、惑星が周囲のガスをかき乱すことで生じる変化から検出することはできるかもしれない。

MAPSの5つの星のうち、AS 209とHD 163296を取り巻く円盤内のガスの速度を分析した結果、ガスの速度がずれている箇所が見つかった。若い木星のような惑星が埋もれていることを示唆するものと考えられる。

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