ガンマ線連星中のコンパクト天体はマグネターの可能性

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ガンマ線連星「LS 5039」に着目した研究で、連星中のコンパクト天体が強磁場を持つ中性子星「マグネター」である可能性を示す結果が得られた。

【2020年12月3日 カブリIPMU

「ガンマ線連星」は、可視光線観測では普通の青白い星に見えるが、X線やガンマ線で観測すると数日から数年周期で明るさが変動し、ガンマ線を強く放射している特殊な天体である。TeV(テラ電子ボルト、1TeV=1兆電子ボルト)ガンマ線と呼ばれる高エネルギーガンマ線の観測が可能になった2000年代以降にその存在が知られるようになり、天の川銀河内では現在10個ほど見つかっている。

これまでの研究で、ガンマ線連星の正体は太陽質量の20~30倍の重さを持つ高温星と、高密度のコンパクトな天体であることがわかっている。しかし、そのコンパクト天体がブラックホールなのか中性子星なのかは、まだはっきりとしていない。

東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の米田浩基さん(現・理化学研究所)たちの研究チームは、2005年にたて座に発見された明るいガンマ線連星「LS 5039」に注目した研究で、コンパクト天体が中性子星であるとすれば検出されるはずのパルス放射を探した。

日本のX線天文衛星「すざく」が2007年にLS 5039を観測した6日間のデータを解析したところ、約9秒の周期成分の兆候が発見された。さらに、NASAのX線天文衛星「NuSTAR」による2016年の観測データからも、同じく約9秒の周期放射の兆候が確認された。これらの結果は、LS 5039のコンパクト天体が9秒程度で自転する中性子星であることを強く示唆するものだ。

約9秒の周期成分の兆候
「すざく」(左上)と「NuSTAR」(左下)の両衛星の観測データに見られた約9秒の周期成分の兆候(出典:2020年 高宇連博士論文発表会・研究会の米田さんの発表資料

また、両データの比較から、中性子星の自転周期が1年で約0.001秒ずつ短くなっていることも示唆された。この結果は、中性子星が徐々にエネルギーを放出しながら遅くなっているものの、その減少量は天体から放たれるガンマ線の放射エネルギーよりも2桁も小さいことを意味している。これまで、ガンマ線連星での粒子加速メカニズムとして「中性子星の高速回転がエネルギー源となって、中性子星から発生するパルサー風(電子・陽電子の風)と伴星からの恒星風が衝突するところで、電子が加速される」という説が考えられてきたが、今回の発見はこれを否定するものだ。

米田さんたちは「中性子星の持つ強力な磁場エネルギーが、超効率的な高エネルギー粒子の加速を引き起こしている」という新たな説を提案している。通常の中性子星にはこれほど強い磁場は存在しないが、「マグネター」と呼ばれるタイプの天体であれば、磁場が1000倍以上も強く、米田さんたちの新説に合致する。9秒というパルス周期がマグネターに典型的な値であることなども、LS 5039のコンパクト天体がマグネターである可能性を高める証拠となっている。

今回の結果はあくまでも、ガンマ線連星のうちの一つがマグネターを持つ連星系の可能性がある、というものだが、ガンマ線連星の謎を解明するうえで大きな進展となる。米田さんたちは今後、追加観測や他波長データの解析によって検証を進めるとともに、連星中のマグネターが効率の良い粒子加速を引き起こすメカニズムの解明も進めていく予定だという。

LS 5039の想像図
LS 5039の想像図。(左下)中性子星、(右上)大質量星(提供:Kavli IPMU)

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