初期宇宙に整った姿の赤ちゃん銀河
【2020年8月19日 アルマ望遠鏡】
独・マックスプランク天体物理学研究所のFrancesca Rizzoさんたちの研究チームがアルマ望遠鏡を用いた観測で、宇宙が現在の年齢(138億歳)のおよそ10%だった時代、つまり、宇宙が生まれてから14億年後の時代に存在する銀河「SPT0418-47」の姿をとらえた。SPT0418-47の像は、私たちと銀河との間に存在する別の大質量天体による重力レンズ効果を受けて拡大され、ほぼ完全なリング状に見えている。
とけい座の方向に存在する銀河「SPT0418-47」。重力レンズ効果によりリング状に見えている(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Rizzo et al.、以下同)
Rizzoさんたちは重力レンズ効果を注意深く補正し、SPT0418-47の真の姿を再構築した。そして、銀河の形や銀河内のガスの運動を調べたところ、渦巻く腕こそないものの、天の川銀河のような渦巻銀河に典型的に見られる2つの特徴を兼ね備えていることが示された。回転する円盤と、銀河中心部の星の集まりである「バルジ」だ。
SPT0418-47におけるガスの動き。(左)重力レンズ効果補正前、(右)補正後。遠ざかる方向に動くガスを赤色、近づく方向に動くガスを青色で示す。補正後の図から、SPT0418-47がきれいな円盤銀河で非常に整った回転をしていることがわかる
バルジを持つ銀河がこれほど遠くで発見されたのは今回が初めてで、SPT0418-47は天の川銀河に似た銀河としては観測史上最も遠い。これまでの研究や観測では、初期宇宙の銀河は成長途中にあり、ガスの動きが混とんとしていて、天の川銀河のような成熟した銀河に見られる構造はまだ作られていないと考えられてきた。
「私たちが見たものは、謎に満ちていました。この銀河の中では星が盛んに作られていて、とても活発な状態にあり、これまでに初期宇宙で見たことのないほど整った姿をしていました。この結果はまったくの予想外で、銀河の進化を理解する上でとても重要な示唆を与えてくれます」(マックスプランク天体物理学研究所 Simona Vegettiさん)。
SPT0418-47のような秩序だった銀河がどのようにして初期宇宙で作られるのか、このような整った赤ちゃん銀河が普遍的な存在かどうかは、今後の観測や研究で解明されると期待される。
重力レンズ効果を補正して再構成されたSPT0418-47
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:アルマ望遠鏡、予想外におとなしい赤ちゃん銀河を発見
- ESO:ALMA sees most distant Milky Way look-alike
- Nature:A dynamically cold disk galaxy in the early Universe 論文
〈関連リンク〉
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