天の川銀河中心部で謎の「G天体」を新たに発見

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天の川銀河の中心部で「G天体」と呼ばれる奇妙な天体の候補が新たに3個見つかった。ガス雲に似ているが恒星のような振る舞いもする天体で、正体は謎のままだ。

【2018年6月12日 W.M.ケック天文台

米・カリフォルニア工科大学ロサンゼルス校のAnna Ciurloさんたちの研究チームが、米・ハワイのW.M.ケック天文台の撮像分光装置「OSIRIS」によって得られた12年間にわたる分光観測データから、天の川銀河の中心部に不思議な天体を複数発見した。

Ciurloさんたちが発見した天体は塵に富んだ恒星状の天体で、「G天体(G-object)」と呼ばれている。天の川銀河の中心ブラックホールの周りでG天体が最初に発見されたのは10年以上前のことだ。2004年に最初のG天体「G1」が見つかり、2012年に「G2」が発見された。非常に大きな速度で運動しており、中心ブラックホールのすぐそばまで近づく軌道を持っている。

G1、G2ともに初めはガス雲だと考えられていたが、これらの天体が超大質量ブラックホールに近接遭遇した際、ブラックホールの強い重力で壊されることなく生き残ったため、その正体については現在も議論が続いている(参照:「ブラックホール通過のガス雲は長大なガス流の一部?」「天の川銀河中心の巨大ガス雲の動きから探るブラックホール周辺」)。もしガス雲であれば重力でばらばらになるはずだ。

今回発見された赤外線天体はG1、G2と物理的特徴が共通しており、新たなG天体候補としてG3、G4、G5と命名された。

天の川銀河中心部の3次元撮像分光データ
ケック望遠鏡のOSIRISで得られた天の川銀河中心部の3次元撮像分光データ。縦軸("X")と奥行("Y")が地球から見た天球上の位置座標、横軸("wavelength")が波長。G3〜G5が今回発見されたG天体(提供:W. M. Keck Observatory)

G天体の位置の変化
G天体(G1~G5)の位置の変化。Sgr A*は銀河中心、赤は恒星(提供:Randall Campbell (W. M. Keck Observatory), Anna Ciurlo (UCLA) et al.、アメリカ天文学会 プレスカンファレンス動画(AAS 232 `The Milky Way & Active Galactic Nuclei')より)

「私たちは、G天体は膨張した恒星だと考えています。非常に大きく膨らんでいるため、中心ブラックホールのそばに近づくと潮汐力によって恒星大気の物質は引きはがされますが、星の中心核は十分な質量を持っているので壊されずに残っている、と考えられます。疑問なのは、『これらの星はなぜ、これほど大きく膨張したのか?』という点です」(カリフォルニア工科大学ロサンゼルス校 Mark Morrisさん)。

どうやら、何らかの大量のエネルギーがG天体に与えられて大きく膨張し、普通の恒星よりも巨大になったと考えられるのだ。

研究チームでは、G天体は恒星同士が合体してできたものだと考えている。2つの恒星が互いに回り合う「連星」が長い期間にわたって巨大ブラックホールの重力の影響を受け、連星の軌道が変化して2個の星が衝突したというのだ。こうした激しい合体現象でG天体が作られたとすれば、膨張に必要なエネルギー源についても説明できる。「このような合体で一つになった天体は100万年にも及ぶ長い期間にわたって膨張し続け、その後落ち着いて、普通サイズの恒星と同じような見た目になるのです」(Morrisさん)。

「この点に最もわくわくします。もしG天体が本当に、中心ブラックホールとの重力相互作用で連星が合体したものだとすれば、最近重力波観測で検出された恒星質量ブラックホール同士の合体現象についても何か手がかりが得られるかもしれません」(カリフォルニア工科大学ロサンゼルス校 Andrea Ghezさん)。

研究チームでは、これらのG天体のサイズや軌道の追跡観測を続ける予定だ。とりわけ、今回の天体が超大質量ブラックホールに接近する際には、特に詳しい観測が行われるだろう。こうした観測で、これらの天体がG1、G2と同じように生き延びるか、それともブラックホールの餌食になるかを確かめることができる。天体の真の正体を明らかにできるのはそのときだけだ。

「これらの天体がブラックホールに接近するまでには数十年待たなければならないでしょう。G3は約20年、G4とG5はそれよりさらに数十年先になります。その間、我々はOSIRISを使ってこれらの天体の動力学的進化を追跡し、天体の性質をより深く知ることができます」(Morrisさん)。

(文:中野太郎)

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