矮小楕円銀河の星の動きから暗黒物質に迫る
オランダ・カプタイン天文研究所とライデン天文台のDavide Massariさんたちの研究チームが、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が2002年に行った観測と位置天文衛星「ガイア」が2014年から2015年に行った観測のデータから、「ちょうこくしつ座矮小銀河」に含まれる星の3次元の動きを高精度で測定した。この銀河は天の川銀河の伴銀河の一つで、約30万光年彼方にある。
「月に置いた針の先よりも小さいものを地球から見分けられるほどの精度を達成し、伴銀河の中を個々の星がどのように動いたのか、初めて決定することができました」(Massariさん)。
ちょうこくしつ座矮小銀河(提供:ESO)
ちょうこくしつ座矮小銀河は「矮小楕円体銀河」に分類される天体だが、これは宇宙で最も暗黒物質(ダークマター)が支配的なタイプの天体の一つであり、電磁波で直接観測することが不可能な暗黒物質の特性を調べるうえで理想的なターゲットとなる。とくに、暗黒物質がどのように矮小銀河内に分布しているのかを理解することは、現在受け入れられている宇宙論のモデルの正当性の検証につながる。
ちょうこくしつ座矮小銀河の星のわずかな動きを誇張した動画(提供:ESA/Gaia; ESA/Hubble, NASA; D. Massari et al. (2017))
「暗黒物質の存在を推論する最善の方法の一つは、物質が天体の中でどんな動きをするのかを調べることです。矮小楕円体銀河の場合、星がその物質にあたります」(カプタイン天文研究所 Amina Helmiさん)。調べられた約100個の星の運動から、暗黒物質の密度が中心に向かって高くなっていることが示唆され、確立されている宇宙論のモデルと暗黒物質に関する現在の理解と一致するものとなった。
また、研究の副産物として、ちょうこくしつ座矮小銀河が天の川銀河の周りを公転する軌道も求められ、これまで考えられていたよりもはるかに大きく傾いた細長い軌道を動いていることがわかった。ちょうこくしつ座矮小銀河は、現在は天の川銀河にほぼ最接近したところに位置しているが、最も離れると72万5000光年もの距離に達することになるという。
〈参照〉
- ヨーロッパ宇宙機関:
- Nature Astronomy:Three-dimensional motions in the Sculptor dwarf galaxy as a glimpse of a new era 論文
〈関連リンク〉
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