銀河団と太陽で同じ化学組成、高温ガスが語る超新星爆発の歴史

このエントリーをはてなブックマークに追加
X線天文衛星「ひとみ」の観測から、ペルセウス座銀河団中心部の鉄属元素の組成比が太陽と同じであることが明らかになった。銀河団の高温ガスの元素組成比は太陽の値と異なるとする従来の説を覆す研究成果だ。

【2017年11月15日 JAXA宇宙科学研究所NASA

数百個から数千個の銀河の大集団である銀河団には、全体に広がる数千万度もの高温ガスも存在している。この高温ガスは、宇宙誕生から現在までに恒星内部や超新星爆発で合成された元素をため込んでいるため、その化学組成を調べると現在の宇宙の平均的な化学組成を知ることができる。

X線天文衛星「ひとみ」を開発した国際研究チーム「ひとみコラボレーション」のメンバーである、米・メリーランド大学の山口弘悦さんと東京理科大学の松下恭子さんは、約2億4000万光年彼方に位置するペルセウス座銀河団の中心部を「ひとみ」で観測したデータを解析し、ケイ素からニッケルまでの特性X線の強度から、約5000万度の高温ガスに含まれる元素の組成を導き出した。

「ひとみ」の軟X線分光検出器のエネルギー決定精度(スペクトルの分解能)が非常に優れているおかげで、これまでの検出器では分解できなかった鉄とニッケルの特性X線の分離や、さらに微弱なクロムやマンガンの特性X線の検出が可能になり、鉄属の元素量を初めて正確に測定することに成功した。

ペルセウス座銀河団中心部のX線スペクトル
「ひとみ」が取得したペルセウス座銀河団中心部のX線スペクトル。背景は銀河団の可視光線とX線の合成画像。(青)観測領域、(黄)「ひとみ」以前に得られていたX線スペクトル(提供:JAXA/Ken Crawford (Rancho Del Sol Observatory))

その結果、銀河団中心部の高温ガスに含まれるケイ素、硫黄、アルゴン、カルシウム、クロム、マンガン、鉄、ニッケルの元素の比がすべて太陽と同じであることが明らかになった。従来の、銀河団の高温ガスに含まれる鉄属元素の組成比は太陽と比べて高いという説と異なる結果である。

銀河団中心部の高温ガスの元素組成比
ペルセウス座銀河団中心部の高温ガスの元素組成比。「ひとみ」によるデータ(赤丸)は、太陽組成比とほぼ同じであることがわかる(提供:プレスリリースより)

太陽が存在する天の川銀河は渦巻銀河であり、銀河団中心部の主要構成銀河は楕円銀河やS0銀河だ。それらで元素比が同じということは、鉄属元素の主要な生成源であるIa型超新星爆発の性質が母銀河の性質に依存しないことを示唆していると考えられる。

ところで、Ia型超新星の爆発のメカニズムによって鉄属元素の組成比が異なってくるので、反対に組成比からIa型超新星爆発についての知見を得ることもできる。Ia型超新星爆発は白色矮星の質量が伴星からの物質輸送で増加したり、白色矮星同士が衝突合体を起こしたりして発生すると考えられているが、どの程度の質量で爆発を起こすかによって、マンガンやニッケルと鉄の組成比が変わると予想されているのだ。白色矮星が太陽質量の約1.4倍の質量で爆発すると、マンガンやニッケルと鉄の組成比は太陽と同程度か若干高くなり、より軽い質量で爆発すると組成比は低くなる。

ペルセウス座銀河団の中心部で得られた鉄属の組成比が太陽と同じという今回の結果から考えると、銀河団中心部の高温ガスの組成比を再現するには、太陽質量の約1.4倍の質量で白色矮星が爆発するタイプと、もっと軽い質量で爆発するタイプの両方が必要であるということになる。超新星爆発の歴史やメカニズムの理解を深める成果だ。

「ひとみ」は打ち上げから約1か月後に発生した不具合のため運用を終了しており、現在は国内外の協力のもとで後継機の計画が進められている。今回の成果をもたらしたような軟X線分光検出器を搭載したX線天文衛星が実現すれば、元素の生成現場である超新星爆発の残骸や銀河間空間に流れ出す元素、銀河団ガスに含まれる元素までの量を測定することができ、宇宙の化学進化史や物質循環の歴史の解明につながる成果が得られると期待される。

〈参照〉

〈関連リンク〉