「すざく」が明らかにした鉄の大拡散時代

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【2013年11月5日 JAXA

100億年以上前に鉄などの重元素が宇宙全体にばらまかれた時代があり、それが現在宇宙に存在するほとんどの重元素の起源であることが確認された。2.5億光年彼方の銀河団における鉄の分布の観測から得られた結果だ。


ペルセウス座銀河団のX線画像

すざくがとらえたペルセウス座銀河団のX線画像。8方向1000万光年にわたって観測し、X線のスペクトルから鉄の分布を探った。クリックで拡大(提供:NASA/ISAS/DSS/O.Urban al., MNRAS)

100〜120億年前の宇宙の概念図

100〜120億年前の宇宙の概念図。星が大量に生まれて超新星爆発とともに最期を迎え、重元素を作り出した。同じ時期に急成長した巨大ブラックホールや超新星爆発爆発のエネルギーが生んだ風に乗って大量の重元素がばらまかれた。クリックで拡大(提供:池下章裕氏)

鉄などの重元素はビッグバンとともに始まった約138億年前の宇宙には存在しておらず、その後に生まれた星々の内部で形成され、星が最期を迎える超新星爆発とともに周囲にまき散らされた。だが、宇宙の歴史の中で、こうした星々で生まれた重元素がいつどのように銀河の外まで運ばれ、宇宙全体に広がっていったのかはわかっていない。

宇宙誕生から約30億年後、星や星の集団である銀河が大量に誕生したころに、鉄などの重元素の多くも生成された。この時代における重元素は、まだ銀河の中や近くにとどまっていたのだろうか。それともすでに、はるか遠方の銀河間空間にまで広がっていたのだろうか。

当時の重元素分布を観測することはまだ難しいということで、ノロベルト・ウェルナーさん(米スタンフォード大学カブリ素粒子宇宙論研究所)やオーロラ・シミオネスクさん(JAXAインターナショナルトップヤングフェロー)らは、比較的近くにある銀河の大集団(銀河団)から手がかりを得ることにした。X線天文衛星「すざく」でおよそ2.5億光年彼方にあるペルセウス座銀河団を調べたところ、銀河団内の1000万光年にも及ぶ広い範囲にわたって、鉄の割合がほぼ一様であることがわかった。このことから、銀河団が誕生したとされる100億年以上前のころには、すでに鉄のほとんどは宇宙に大きく広がり、よく混ざっていたと考えられる。

数多くの星が生まれ、巨大ブラックホールが急成長したこの時代、星々から生み出された重元素は銀河からの強い風に乗って広大な宇宙に拡散し、現在の宇宙に広がるほとんどの重元素の起源となっていたのだ。

「たくさんの重元素が銀河から吐き出されうえに、広大な銀河間空間でほとんど均一に混ざりあうほどに強い風が吹いたということは、この時代の星生成とブラックホール成長によるエネルギー解放がいかに莫大であったかを示しています」(データ解析に参加したスタンフォード大の大学院生、オンドレイ・ウルバンさん)。

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