酸化アルミニウムが豊富な、死にゆく星の塵形成と恒星風加速

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漸近巨星分岐星と呼ばれる年老いた軽い星の多くでは、周りに酸化アルミニウムダストが豊富に見られる。本来少ないはずの物質が豊富な理由について、アルマ望遠鏡による観測から原因が探られた。

【2017年11月2日 アルマ望遠鏡

太陽のような低中質量星の一生の末期にあたる漸近巨星分枝星は、天の川銀河の金属元素を供給しており、太陽系を形作る元素の多くもこの過程を経ている。漸近巨星分枝星の周りには、ケイ酸塩や酸化アルミニウムが1μm以下程度の大きさのダスト(固体微粒子、塵)として豊富に存在しており、ダストは恒星からの光を受けて質量放出風を加速させる重要な役割を担っている。

ところで、太陽の元素組成に基づくと酸化アルミニウムダストはケイ酸塩ダストの1/10程度しか存在しないはずだと考えられるが、約4割の酸化的な漸近巨星分枝星の周囲には酸化アルミニウムダストが豊富に観測されている。酸化アルミニウムが豊富に観測される一方、ケイ酸塩があまり観測されない漸近巨星分枝星が多く存在するという観測事実は大きな謎とされてきた。

京都大学白眉センターの瀧川晶さんたちの研究チームはアルマ望遠鏡を用いて、約250光年彼方の漸近巨星分枝星「うみへび座W星」の周囲に存在する酸化アルミニウムガスと一酸化ケイ素ガスの空間分布を観測した。この星がケイ酸塩ダストに乏しく酸化アルミニウムダストに富んでいれば、酸化アルミニウムガス分子は恒星の近傍で酸化アルミニウムダストを形成するのに使われ、一酸化ケイ素分子はケイ酸塩ダストにならずにガスとして残っていると予想されるので、観測によりこの分布を実証するのが目的だ。

うみへび座W星
うみへび座W星。星とその周囲の一酸化ケイ素分子が放つ電波を赤で、酸化アルミニウム分子が放つ電波を黄色で表示。一酸化ケイ素分子が大きく拡がっていることがわかる(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Takigawa et al.)

アルマ望遠鏡の高い空間分解能を活かした観測の結果、酸化アルミニウムガス分子が中心星から3恒星半径以内に分布する一方、一酸化ケイ素ガス分子は5恒星半径以遠まで拡がっていることがわかった。酸化アルミニウム分子の分布は、過去に観測されたダスト分布と非常によく一致しており、星から近いところに酸化アルミニウムダストが濃集している可能性を示している。

また、周囲のガスに比べて高速で放出される一酸化ケイ素ガスの塊が、ダストが観測される領域からやや外側に複数見られた。これをモデル計算と比較すると、恒星から放出される一酸化ケイ素分子のうち3割以下しかダストにならず、残りはガスのまま残っていることがわかった。

これらの結果から、うみへび座W星の近くで酸化アルミニウムが形成・成長し、さらにいくらかのケイ酸塩ダストが凝縮することで、質量放出風の加速が引き起こされたと考えられる。加速した恒星風の中ではさらなるケイ酸塩の形成が阻害されるため、結果としてケイ酸塩ダストに乏しい恒星となる。

質量放出風の加速と、酸化アルミニウムおよびケイ酸塩ダストの存在量に関するメカニズムの概念図
質量放出風の加速と、酸化アルミニウムおよびケイ酸塩ダストの存在量に関するメカニズムの概念図。中心星の近くで酸化アルミニウムが形成・成長し、ケイ酸塩ダストの一部が凝縮するために質量放出風が加速されて、さらなるケイ酸塩ダストの形成が阻害される(提供:瀧川晶(京都大学))

うみへび座W星だけでなく、多くの酸化アルミニウムに富む漸近巨星分枝星においても同様のことが起こっていると考えられる。酸化アルミニウムの形成が漸近巨星分枝星の質量放出風の加速やケイ酸塩ダストの形成効率に影響を及ぼすという結果は、天の川銀河における物質循環を理解するうえで、異なるタイプの恒星毎にダスト形成の違いを考える必要性を示している。

また、今回の研究成果は、恒星の周りのダストを調べるにはダスト自体だけでなくダストを形成するガス分子の観測も重要であることを示している。これまで赤外線を使ってダストそのものの観測を行ってきた「宇宙鉱物学」が、ガスを使って星周塵の形成を明らかにしようとする「ガスからの宇宙鉱物学」へ発展していく足がかりとなる成果といえるだろう。