巨大楕円銀河から吹き出す高速ジェットの運動
【2017年7月11日 国立天文台VERA】
おとめ座の銀河M87は約5900万光年彼方に位置する巨大な楕円銀河で、おとめ座銀河団の中心に位置している。M87の中心に潜む超大質量ブラックホールからはジェットが光速に近い速度で噴出しており、ジェットは5000光年以上にもわたって伸びている。
M87と中心から吹き出すジェット(提供:NASA and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA))
国立天文台水沢VLBI観測所の秦和弘さんたちの研究チームは日韓合同VLBI観測網(KVN and VERA Array; KaVA)を使って、2013年12月から2014年6月にかけて2~3週間おきに全10回にわたり、M87のジェットの運動を観測した。
(左)M87のジェットを横向きにして観測日順に並べて、ジェットの構成要素であるA, B, D, Eが時間経過とともにどのように動いたかを示した図。(右)ジェットの構成要素ごとに時間経過とコア(C)からの距離を示した図。コアに近いAよりも遠いEのほうが傾きが大きいことから、Eのほうが速く遠ざかっていることがわかる(提供:観測成果のリリースページより)
観測によって電波ジェットの高速運動の様子がとらえられ、ジェットが徐々に加速する様子が明らかになった。同時に、銀河中心の活動銀河核から噴出するジェットの詳細な構造の進化を研究するうえでKaVAが重要な装置であることが実証された。2016年から実施しているKaVA大規模プログラムでは更に詳細なモニター観測が行われているが、この結果はそれに先立つ重要な成果となる。
今後、KaVA大規模プログラムによって更に多くの観測データを蓄積することで、超大質量ブラックホールが駆動するジェットの加速・生成メカニズムが詳細に明らかになると期待されている。
〈参照〉
- 国立天文台VERA:KaVAで活動銀河核ジェットの運動を捉えることに成功
- PASJ:Pilot KaVA monitoring on the M87 jet: confirming the inner jet structure and superluminal motions at sub-pc scales 論文
〈関連リンク〉
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