3つの探査機で同時観測、火星の砂嵐で水が失われる過程

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火星の砂嵐を3つの探査機で同時に観測することで、大気中の水蒸気が砂嵐によって上層へ運ばれ、水素原子と酸素原子に分解されて宇宙空間へ散逸する過程が明らかになった。

【2021年8月19日 JAXA宇宙科学研究所NASA

火星の地表にはかつて、大量の水が存在していたと考えられている。しかし現在では、その水はごく一部が氷として極冠などに残されているのみで、大半は宇宙空間へ逃げ出してしまったとみられている。

水の分子そのものはそう簡単に火星の重力を振り切ることができないが、何らかのきっかけで気圧が薄い大気上層へ運ばれれば、そこで太陽の紫外線によってより軽い水素原子と酸素原子に分解され、重力の束縛から逃れうる。そのきっかけとしては、季節変動に加えて、火星の地表面で発生する砂嵐(ダストストーム)が挙げられていた。

火星のダストタワー
2010年11月に探査機「マーズ・リコナサンス・オービター」がとらえた火星。中央下の黄色っぽい部分が、上空数十kmの高さにまで塵の雲が巻き上げられた「ダストタワー」。青白く見えているのは水蒸気の雲。左上にオリンポス山、右下にマリネリス峡谷も見える(提供:NASA/JPL-Caltech/MSSS)

塵は太陽光からの熱を吸収しやすいため、砂嵐によって大気中に含まれる塵が増えると大気が温まる。すると、水蒸気が冷えて雲となる高度が高くなり、紫外線を受ける高度に達して分解される、というのが砂嵐による水散逸のメカニズムだ。ただ、これまでの観測は断片的だったため、砂嵐の影響と季節変動を切り分けて水の散逸と結びつけることはできていなかった。

米・コロラド大学ボルダー校 大気宇宙物理学研究所のMichael Chaffinさんたちの研究チームは、2019年1月から2月にかけて発生した小規模な砂嵐をNASAの火星探査機「マーズ・リコナサンス・オービター(MRO)」と「メイブン」、欧・露のミッション「エクソマーズ」の火星周回機「TGO(Trace Gas Orbiter)」の3機によって同時に観測した。

MROは地表付近の塵の量、気温および雲の量を観測し、TGOは地表から高度100km程度までの水蒸気の分布を、メイブンはさらに上層における水素の量を調べた。この合同観測によって地表面から宇宙空間に至るまでの変化が連続的にとらえられ、砂嵐の発生とともに塵が増加して雲が消えること、約1週間経ってから上層で散逸していく水素の量が増えていることがわかった。砂嵐が火星の水を散逸させる上で重要な役割を果たすことを裏付ける成果だ。

砂嵐の前後における変動
2019年1月に発生した小規模な砂嵐の前後における大気場の変動のデータ。砂嵐発生に伴ってダストの光学的厚さが増加するとともに、大気温度の上昇および氷雲の消失が観測された。さらに、水蒸気が上層へと輸送され、約1週間後に散逸水素が通常の5-10倍へ増大する様子もとらえられた。画像クリックで拡大表示(提供:Chaffin et al., 2021, Nature Astronomy改変)

これまでの仮説では、数年に一度発生する大規模な砂嵐が水の散逸と関わっているとされていた。今回の観測・研究は、毎年のように発生する局所的で小規模な砂嵐も、火星の水環境の進化に大きな影響を与えることを示唆するものである。

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